- ナノ -

イヤリング

<真波山岳/ 読み切り>
2018年誕生日企画作品(リクで頂いたお題を、ひとつの作品に全て盛り込むという企画でした)
ご参加ありがとうございました*
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「山岳、そろそろ起きないの?朝ごはん、とっくにできてるんだけど」


私が一時間以上前に開けたカーテンから入る陽の光を目一杯受けて、真波山岳・・・私の彼氏は未だ尚、気持ち良さそうに寝息を立ててる。

「・・・ねぇ。今日は、久しぶりにデートに出かけようよって誘ってくれたの、山岳でしょ?約束したじゃん。早起きして出掛けて、芦ノ湖でボートに乗ろうね、って」
うりうり、と人差し指で彼の頬を小さく攻撃しながら言う。もう青年と呼ばれる齢になったっていうのに、その頬は少女みたいに真っ白で綺麗だ。
「んー・・・いひゃいですよ、名前さん」
「いい加減起きないと、もうお昼になっちゃうんですけどーっ。」
「あと、ごふん・・・・・・」

まったく・・・もう学生じゃないってのに。大人になれば自然と、寝坊も遅刻もどうにかなるって思ってた私は浅はかだった。
・・・まぁでも、たまの休みだし・・・もう少し、寝かせといてあげようかな。
久しぶりに泊まりに来てくれたのは嬉しかったけど、でも芦ノ湖でのデートだって楽しみにしてたんだけどな。 こんな調子じゃ、今日もこのままお家デートになってしまう事は火を見るよりも明らかだ。

「もー・・・じゃ、目が覚めたら起きて来てね。私、リビングにいるから」
憎たらしいなと思いつつも、すやすやと眠る天使みたいな寝顔を見てると全て許せてしまう。山岳の寝坊が治らないのは、私の甘さが原因・・・だなんてのは断じて認めたく無い。
「ん・・・名前、さん」
山岳が目を閉じたまま、片手を上げて手招きした。何かなと思って近づいて、ベッドに片手を着いた瞬間、強い力で身体を引き寄せられる。
「えっ!?な、何っ・・・」
山岳は私の言葉を塞ぐようにキスをした。自身の舌を強引に私の口内にねじ込むそのキスに、昨夜の行為を思い出して、キスだけだっていうのに身体の中心が熱くなる。

「・・・ごめんね、起きれなくて。朝ごはん、後でちゃんと食べるから。・・・おやすみ・・・」
「・・・しょうがないなぁ、わかったよ。オヤスミ、山岳」

すぅすぅ、一人暮らしの寝室に、美しい寝息が再び響く。ったく、仕方ないんだから。やれやれと頭では思ってるはずなのに、表情筋は頭よりも心と仲良しみたいで、ついつい口元が緩む。

そうしてリビングに戻った私は・・・はた、と、これで良いのだろうかと我に戻る。

・・・私って、いつもこうじゃん。

惚れた弱みに付け込まれて、どう考えたって向こうに非があったとしても、キスや甘い言葉にほだされて有耶無耶になってしまう。...それがヤツの天然なのか計算なのかは、未だに解明できていない。
だけどとにかく、折れてあげるのも振り回されるもいつも私だった。年下のアイツに、私はドキドキさせられてばかりいる。

ふつふつと、怒りが湧き上がる。
...よし、復讐だ。
今日はアイツを、ぎゃふんと言わせてやる!












−−−オレが目を覚ますと、名前さんの寝室の時計はもうとっくにお昼をすぎてる。
ああ、よく寝たなあ・・・いや、寝すぎかなぁ、こりゃ。やっばいなー、また名前さんに怒られるかな。そういえば、今日は芦ノ湖に行こうって約束してたっけ・・・
どう謝ろうかな、なんて思いながらリビングの扉を開ける。だけどオレの元に飛んで来たのは、名前さんからのビンタ・・・では無くって、まさかのハグだった。

「おはよ、山岳」

−−−え。え?
何、なんだこれ。

「えーと・・・おはよー、名前さん・・・?」
「・・・いつまで寝てんのよ。・・・さみしかったよ、せっかく一緒のお休みなのに」
ぎゅう、両腕を背中に回されて抱きしめられ、オレの腹の辺りに彼女の胸が押し当てられる。いや、ハグなんて初めてじゃないけど。だけどこんなの、ズルいって!不意打ちすぎるよ。デートすっぽかして、絶対怒られると思ったのに・・・。

「でも、しょうがないから今日はお家デートでも許してあげる。ほら、早くゴハン食べなよ?」
「・・・どうしたんですか、名前さん」
「何が?」
「やけに優しいなと思いまして」
「そう?久しぶりのお休みなんだから、山岳だってゆっくり休みたいだろうなって思っただけだよ」
にっこり、笑いながらテーブルにミネラルウォーターの入ったグラスを置いてくれる。可愛いすぎて、思わず軽率にプロポーズしてしまいそうな位。(ダメダメ、"その時"が来るまで大切にとっておくんだから。)

食事を終えてソファーに座っていると、食後の紅茶まで淹れてくれた。本当に今日は、ずいぶんと優しいな。なにか良いことでもあったのかな?まぁ、おっかないのよりはずっと良いか。

名前さんは隣に座ると、山岳、と名前を呼んで、オレの胸に頬を擦り寄せた。
どうやら今日の名前さんは、優しい上に甘えん坊らしい。ふふ、かわいいな。

「ごめんね。オレ、こんな時間まで寝ててさ。芦ノ湖、今からでも行こうか?」
すっぽりとオレの腕に収まってる彼女の肩を、優しく撫でながら聞く。
「ううん、いいの。・・・今日はこのまま、こうやって甘えてたい」

−−−珍しいな、照れ屋のキミからそんなコト言うだなんて。
どんなカオしてるのか気になって指先でアゴを持ち上げると、案の定真っ赤なカオして瞳を揺らしてる。ふふ、慣れない事するからそうなるんだよ。
可愛くって、胸がいっぱいになる。
キスがしたくなったから、そのまま顔を近づけようとすると−−−ちゅ、と、まさかの名前さんの方から口付けをされた。


「・・・いっぱい、してもいい?・・・私からしたい、今日は」


触れるだけのキスから唇を離して、名前さんが甘えたような声で言った。
「う、うん」
不意打ちの連続に、オレはまるでファーストキスみたいに浮ついた反応しかできない。
ちゅ、ちゅ、と名前さんが柔らかな唇を押し当てて来て、オレはされるがままだった。困ったな、攻める方が性に合ってるんだけどな。だからこんなのは慣れてなくて、まるで身体中が心臓になったみたいにドキドキする。・・・みっともないな、オレ。余裕無さすぎ。

「さんがく・・・くち、あけて」

その言葉に従うと、名前さんの舌がオレの口内に這入ってくる。その可愛い舌でしてくれるディープキスは、オレがいつもキミにするのと全く同じやり方。きっとオレのキスしか、知らないからなんだろう。そう思った途端、オレの中にある独占欲の焦燥が満たされる。

「・・・さんがく、」
深いキスから唇を離して、潤んだ瞳で名前さんは言った。


「・・・えーと・・・どきどき、していますでしょうか・・・?」


・・・え?
ふふっ。なんで敬語なのさ。

−−−そうか、わかってしまった。

名前さんは多分、オレの事ドキドキさせようとしてるんだ。大方、オレが寝坊した仕返しだとか、そんなトコロかな?...だとしたら、随分と可愛らしすぎる復讐だけど。

けどキミは、オレが教えてあげたキスや甘え方しか知らない。だからソレで、オレの事ドキドキさせようとしてるんだね。−−−なにもかも、手に取るようにわかってしまう。
そして多分オレ以上に、この人の方がいっぱいいっぱいだ。


「・・・うん。ドキドキするよ、すっごく。困ったな。余裕無いや、オレ」


全部わかってしまったけどオレは、気付かないフリしてそう答える。すると名前さんは、満足そうに微笑んだ。ああ、可愛いなぁ。ホント面白いよね、キミってさ。






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