The Day・1


※n年後
※雲雀さんがそこそこまあまあ群れる
※諸事情で掲載できなくなった別ジャンルの改変供養なので似た話を見た方がいらっしゃるかもしれませんが、同じ作者の話です。



0.20xx.03.28
 男は目を覚ました。
 自分が眠ってからどれくらいの時間が経ったのだろう。果てしなく長い時間眠っていたのだろうか、起きていた時のことは思い出せそうにない。
 自分は何者で、何処から来たのか、何処へ帰るべきなのか。
 身体を動かして起き上がると、ひんやりと冷たい感触がした。どうやら自分が今まで寝ていたのは水が張られた場所らしい。手をつけばすぐに地面に届くほどの浅瀬が水平線の向こうまで続いている。
 ゆっくりと顔を上げ、空を見上げる。塗りつぶしたような真っ青の空は際限なくどこまでも伸びていた。

1.海の底 20xx.06.12
 一週間だ。オレはたったの一週間ここを離れていただけだったのに。
 獄寺隼人は数年ぶりのイタリアの帰省から並盛町へと戻り、その町の姿を見て絶句した。並盛の中心の並盛中へと続く道の先が水に沈みこんでいたからだ。ユラユラと揺れる水面が太陽の光を反射して輝いている。遠くに見えていた並盛神社の石階段が半分以上も水の底に沈んでいるのを見て、頭を抱えた。
「いつの間に水面が上がったんだ……」
「雨が降ったからな、仕方ねーよな」
 不意を突くように後ろから声を掛けたのは山本武だった。
「うわッ!? いきなり出てきて脅かすんじゃねぇ野球バカ!」
「おかえり」
「『おかえり』じゃねぇ! 何でお前がここにいんだよ!」
「獄寺が帰ってくるっていうから待ってたんだぜ」
「はぁ? 待ってたって、どういう……」
「案内役。今日非番で暇なのオレだけだから」
 そう言いながら山本は徐に着ていたシャツを脱ぎ始める。
 炎天下の空の下、急に何をし始めるとうろたえる獄寺を横目に山本は水の中へと足を踏み入れた。ちゃぷんと音を鳴らしながら少しずつ水の中へと入っていく。
「お、おい、何やってんだよ……」
「舟取って来るからちょっと待ってろよ。この水ん中、息はできるし濡れないけど荷物持ってると動きにくいだろうし」
 水の中なのに息ができて濡れないとはどういうことなのか。
 山本は胸のあたりまで沈んだところで獄寺を振り返り、バシャバシャと音を立てて手を振る。そして急にまるで落とし穴にでも落ちたかのように水に沈み、姿が消えた。後に残ったのは山本が立てた波が流れていく景色。
「……マジか」
 獄寺は荷物を道に置き、その場にしゃがみこんで水に手を入れた。指先でその冷たさをかき回すと、傍に小さな蟹が寄ってきた。獄寺の手の傍をカサカサと動き、通り過ぎていく。ぼーっとその動きを目で追いながら時間をつぶしていた。
 帰ってきて早々面倒なことになったものだ。ああでも早く部屋で休みたい。久しぶりに日本食が食べたい。そんな気分だ。様々なことに思考を巡らせて現実逃避をする。
 しばらくしてようやく遠くの方から小さな木製の舟らしき姿が見え、山本の声がした。

「悪い、遅くなって」
「……町のやつらはどこに?」
「普通に水の中で暮らしてる。初めてのことじゃねーし慣れてるって」
 そういえばそうだった。並盛の町が水の底に沈むのは今回で二度目のことだった。商店街も公園も何もかも、海の底へ。比較的高いところに建てられた並盛中学校と並盛神社だけは建物が海の上に見える。帰省で忘れかけていたことを改めて思い出した。顔を顰めると山本は「どうした? 腹痛いのか?」とまるで見当違いなことを言う。
「なんでもねーよ。ってかアジトはどうなってんだ?」
「地下に作ってあるから、海の底の底……と言いたいところなんだけど、並盛神社の裏側に浮かんできてる」
「はぁ!?」
「幸いあっちの方は山だったから人も来ねーし、今は幻術で隠してるから一般人には見えねーよ」
 あはは、と朗らかに笑う山本とは対称的に、獄寺は顔を引きつらせて固まった。
「……んで、なんで今回はこんなことになっちまったんだ?」
「んー、ヒバリのやつ、獄寺がイタリアに帰ること知らなかったみたいでさ。入れ違いでイタリアから帰ってきてから初めて知って目に見えて拗ねたっていう」
「……だから、雨が降って海ができたと?」
「そゆことだな〜」
 山本は獄寺からキャリーバッグ等荷物を受け取って舟に乗せながら、指をクルクルと回してのんきにそう言った。
 そゆこと〜などという軽いノリで済ませていいものか。獄寺は一週間前のこと、そういえば一度イタリアに帰ると知らせたのはボスである沢田にのみだった気がするのを思い出した。そして同時に拗ねている雲雀の姿も容易に想像できた。途端にアジトへ戻ろうとする足が重くなる。いや、帰るのは山本が漕ぐ舟に乗って、ではあるが。これは帰ったらさらに面倒くさそうだ。
「獄寺、行けるぜ」
「……ああ、分かった」
 静かな森に囲まれた中、ざざーんと響く波音をぼんやりと聞きながら山本の舟に乗る。スーツを整えて座ると、舟はゆっくりと動き出した。

 透明な水面の下にはサカナやクラゲが泳いでいる。獄寺が舟の淵から海を覗き込むと、小舟は微かに傾いた。その揺れに驚いた山本が間抜けな声を上げる。
「うお」
「しっかりしろよ。落ちんだろ」
「獄寺が体重掛けるからだろ」
「うるせーな」
「落ちると面倒だぜ」
 ニコニコと笑うその顔に悪意が無いのは分かっているが、曲げて捉えしまうのが獄寺の欠点である。ふんと鼻を鳴らして遠くを見ると、水平線の向こうに地下に沈んでいるはずのボンゴレアジトが水面の上に浮いているのが目に入った。改めて初めてその外観を見た。まるで獄寺が帰ってきたのを歓迎しているようだった。
 雨が降れば海ができる、なんておかしなこともあるのだから、建物の位置が変わることなど当然のことのようなものか。これは元の並盛町に戻るまで建物間の移動が大変そうだと他人事のようにため息をついた。
「……これ沈んでんの並盛町だけなんだよな?」
「それがさ、あっちの方、水平線でずっと遠くまで続いてるだろ?」
 山本が櫂を動かしながら東の方角を指さす。森も海に沈みこみ、開けた海がどこまでも続いている。つるりとした水面は空を映して真っ青なキャンバスとなり、白い雲を描いていた。それ以外は何も無い。それはまるで……。
「昨日オレと笹川兄でそっちの方探検しに行ったんだけど」
「行っても何もなかったか」
「そう。前回の時は隣の町に通じてたところがあっただけなんだけど、今回は獄寺が帰ってきたあそこ。あそこだけが並盛町の出口になってる」
「つまり、前回よりめんどくせーことになってるってことだな? そうだろ」
 前も雲雀の機嫌を損ねてしまったせいで雨が続き、このように海が出来た。その時のことを思い出して苦い顔をすると、山本は黙ったまま苦笑した。
「……ほら、着いたぜ」
「おりたくねぇな」
「そうも言ってらんねーよ」
 舟はアジトの入り口付近に留められ、獄寺は荷物と共に舟から境内に上がった。山本はこのまま舟を元あったところへ返しに行くらしい。どうやら町の方で無料貸し出ししている船のようだ。重ねて礼を言うと、山本は手を振ってアジトを離れていった。
 さて、これからどうするか。正直今すぐにでも部屋へと帰って休息を取りたいがそういうわけにはいかない。沢田に帰ってきた報告をして、身内へ土産を渡し、それから……。
 指を折って数えるだけでもだんだんと気力が失われていくのを感じる。とりあえず荷物を引きずり、自室を目指すことにした。

「おかえりなさい、獄寺君」
 荷物を片付けて真っ先に沢田の部屋へと向かう。部屋で書類の整理をしていたらしい沢田は、獄寺のことを見るといたずらっぽく笑いながら言った。この様子を見る限りボンゴレの人間は皆海が出来た経緯を知っているのだろう。沢田が知っていて皆に通達しないわけがない。獄寺は扉を閉め、沢田の机の前に立った。
「獄寺隼人、只今帰りました。……で、えっと……ですね……」
「イタリアどうだった?」
「それより、今の並盛の状況の方が重要かと……」
 気まずさに耐え兼ねて恐る恐る切り出すと、そのせいで耐えられなくなったのか、沢田は大きく噴き出して笑い始めた。
「っはははは! いや、ごめん! 獄寺君どんな顔するかと思ってさ!」
「笑い事じゃないですよ十代目!」
 沢田がこうも笑うのは珍しいが、一度笑い始めると止まらないらしい。この調子では夕飯でも笑われることだろう。少しむっとしてもう一度「十代目」と低く言うと沢田はさらに顔を真っ赤にして笑い転げてしまった。
「ん、はは……、はあ、前にもこんなことがあったのを思い出して、さらに笑えてきた。ほんとごめん」
「より笑えないっすよ」
「笑えないなら早く仲直りしてきなよ。土産話はまた明日にでも聴かせて欲しいな」
「勿論、十代目にお渡しする土産もたくさん買ってます」
「うん、ありがとう」
 軽く礼をして、沢田に背を向ける。沢田はまだ余韻が残っているようで小さく震えていた。いち早く元凶を見つけて解決しなければならない。しかしその前にそういえば、と振り返ってもう一度沢田の名前を呼んだ。
「ヒバリの奴は……どこにいるんですか?」
「部屋には居なかった?」
「ここに来るときに一通り見て来たんですが、いなかったようで……」
「そうだな……それなら、まあ」
 沢田は口元を抑え、少し考える素振りをした。
「……いや、機嫌を損ねたヒバリさんのことだし、獄寺君が一番よく知っているんじゃない?」
 今日の沢田はほんの少し意地が悪い。淡い橙の瞳が細められ、獄寺をじっと見定める。獄寺はもう一度礼をしてそっと扉を閉めたのだった。

 ボンゴレアジトの三分の一ほどは海の上に浮いている。その部分が別段軽いわけでも、下の方が沈んでしまうほど重いわけでもない。ただ雲雀が望んだからそうなっただけだ。海に浮かぶようになってから急遽建て替えたのか、外に出られるような廊下がアジトの周りを巻いている。そこを歩いていると、風に乗って海の潮の匂いが鼻をくすぐった。実際に海へ行く機会はなかなかないものの、海とは気持ちのいいところだということを知っている。
「めんどくせーことになったな……」
 帰ってきたときは高いところにいた太陽が傾いて橙に燃えている。海の水面もそれを映し昼間とはまるで違う姿を見せていた。もうそんなに時間が経っていたということか。アジト内は大方捜しまわったし、他の構成員や風紀財団の人間にも雲雀の所在を尋ねたが見つからなかった。
「……まあ、この下だよな……」
 足元の海を見つめ、ぼそりと呟く。
 夕暮れの海は少しだけ怖い。まさに燃えているようで、触るのを躊躇ってしまう。
 剥き出し廊下の淵に座り、靴下を脱いでつま先を軽く水につけた。そのままじっと眺めていれば、自然と魚が寄ってきて獄寺の足を撫でる。
 と、突然何かが足首を掴んだ。そして物凄い勢いで獄寺を海の中に引きずり込む。油断しきっていた獄寺は咄嗟に床に爪を立てたが、抵抗虚しくその体は簡単に水に飲み込まれた。
「ヒ、バリ……ッ!」
 引きずり込まれた時の衝撃からできた水の流れが勢いよくスーツを剥がす。黒い布は前に映画でみた魔法の絨毯のようにひとりでにゆらゆらと漂っていく。手を伸ばすが掴むことは叶わず、身体は沈むばかりだ。
「ヒバリ! くそっ、離せ!」
 自分の足を掴んでいる手は誰のものなのか見ずとも分かっている。段々と水面は遠くなり、暗く冷たい海の底へと深く深く沈む。途中泳いでいた魚や穏やかに揺れていた海藻は無感情な岩肌が周りを覆うだけの景色に変わっていく。水面に差し込んだ微かな光が視界の端で揺れてついには散り散りに消えた。
 なされるがままに引っ張られていたが、ふと足首から手が離れて足の裏が海の底の砂に触れた。ゆっくりと重力に従って身体が落ちていくのを感じる。押し付ける重く苦しい水圧にギュッと目を細めると、近くで馬鹿にするような笑い声が聞こえた。
「ヒバリ、急に引きずり込むのはやめろ」
「君が言うんだね」
 『急に』『何も言わずに』イタリアに帰ったことを咎められている。獄寺は何も言い返せずにぐっと押し黙った。
 真っ暗な海底で目が慣れるまでには少々時間がかかる。しかし段々慣れてきた目は雲雀の輪郭を薄らぼんやりと捉えた。恐る恐る手を伸ばすと、パシリと手を跳ねのけられた。機嫌が悪い猫のようだ。この間瓜が苛立たし気に尻尾を床に打ち付けて匣の中に帰らず困り果てたのを思い出した。いや、目の前にいるこの男は子猫などという可愛げのあるものではないのだが。もっと凶暴で獄寺の手には負えない。いっそのことここにディーノやリボーンがいればうまく丸め込めただろうに。不器用で言葉足らずの獄寺は何を言ったところで雲雀の神経を逆なでするだろう。このことは本人が一番よく知っている。
「あー、その、悪かった。何も言わずに帰っちまって」
「そうだね」
「……」
「今度財団の仕事に君を借りられることになったからもういい」
 雲雀の手が伸びて、銀色の髪を撫でる。一瞬言葉の意味を飲み込めず、獄寺はパチリと瞬きをした。そして意味を理解すると口から大きな気泡を吐き出して、雲雀の手を払いのけた。
「聞いてねぇ!」
「お相子だろう」
「いつ決まった」
「君が勝手に帰った日に」
 平然と言ってのける雲雀に、獄寺はため息をつく。恐らく沢田が最低限の負担で済むようにセッティングをしてくれたのだろう。
 雲雀はユラユラとクラゲのように髪を揺らめかせながらその場に寝転がった。ゆっくりと砂に身体を沈みこませれば真っ暗な深海に溶けていく。
 すっかりこの暗い視界に慣れてしまったが、今は何時だろうか。もしかしたらもう皆は夕飯を終えてしまったかもしれない。恐らく自分の分は取り分けられてはいるだろうが、身体も冷えてきたことだし早く地上に上がりたい。
 獄寺がそう考えながら水面を見上げていると、独り言のように雲雀が喋りだす。
「君のいる並盛が当たり前になってしまって慣れない」
「……? どういう意味だ」
「そのままの意味だよ」
 雲雀の真っ黒な瞳が獄寺をじっと見つめる。
「海の底は君に似てるから落ち着く」
「俺は暗く冷たいとでも言いてーのか? あ?」
 獄寺の言葉に雲雀が喉の奥でくつくつと笑った。他の人間は獄寺が怒るのにいい加減慣れてしまって流すことが多いが、雲雀は毎度まるで冗談を受けたかのように笑う。普段は誰の冗談にもピクリとも笑わないくせに。その意図など知れたことではないが、どうにも心地悪い。どうせ馬鹿にしているに違いない。
 獄寺が小さく舌打ちをすると、雲雀も起き上がって上を見上げた。月が出ているのだろうか、微かな明かりが水面に揺れている。
「帰ろうか」
「機嫌は直ったのかよ」
「元々機嫌は悪くない」
「嘘つけ拗ねてただろ」
 心外だとでも言うように、雲雀の眉間に皺が寄る。少し仕返しが出来たようだ。誰かが見れば大人げないとあきれるだろう。それでも獄寺はこのやり取りが嫌いではなかった。
 獄寺はクスリと笑い、雲雀の手を取った。雲雀は簡単に獄寺を抱き上げて強く砂の地面を蹴る。泳ぐのは得意らしい。まるで人魚のように色の明るい方へと昇っていく。
 アジトにたどり着くと、すっかり夜が更け月明かりだけが町を照らしていた。雲雀は一度獄寺を下ろし、小さく息を吐いた。昼に山本が言っていた通り、水の中にいたというのに全く濡れていない。
 不意に丁度そこを通りがかった笹川了平に鉢合わせる。風呂帰りらしく、肩からタオルをかけてさっぱりとした顔をしていた。了平は二人を見ると、厨房の方角を指さして飯はもう食べたと告げた。
 アジト内の構造も少し変わっているのか、厨房の位置が覚えている方向と離れている。面倒なことをしてくれるな、と雲雀を睨んだが、本人は素知らぬ顔をしていた。
「今日はカレーだ。運が良ければ残っているぞ」
「残ってなきゃ困るんだよ。何も食ってねぇし腹が減ってる」
「食事は戦争も同じだぞ」
 了平は豪快に笑い、獄寺の頭を乱暴に撫でた。そしてひらひらと手を振って部屋へ帰っていく。
「……腹減った」
「僕は別に減ってない」
「オレは減ってんだよ。おい……おい! 離せ!」
 雲雀はもう一度獄寺を抱き上げ、厨房とは別の方向へ足を進める。疲れ切った獄寺に抵抗しきる力もなく、ただわめくだけで精一杯だ。のんびりと歩く雲雀の足音がはっきりと廊下に響く。夜の海はただ静かに凪いでいた。

1.5. 後日談 20xx.06.13
「ところでさ、水平線の向こう側にレールが出来てたんだよね」
「レール?」
 翌日の昼過ぎ、ある意味で満身創痍の身体を引きずって沢田の部屋に今回の事態の報告書を提出しに行った獄寺。沢田は海が出来てから作ったらしい並盛の地図を取り出して、指で真っすぐに線を引きながらそう言った。
「並盛町もすっかり変っちゃってさ。ここは浅瀬だったんだけど電車が通るレールができてたんだよね」
「前回はそんなものなかったですよね?」
「何度か電車が通過していったと目撃情報も出てるんだ」
 獄寺はすっかり寝ていて気が付かなかったらしいが、今朝早く鉄の塊がアジトの北側を通りすぎて水平線の向こうの方まで行ったらしい。強烈な音と振動で起きてこなかったのは獄寺と雲雀だけだったと聞いて顔に熱が集まる。誤魔化すように首を横に振って質問を投げかけた。
「そ、それで? 調査しますか?」
「その必要はない」
 突然扉が開き、雲雀が顔を覗かせる。驚いた沢田と目が合うと、眠たげな目をこすってあくびをかみ殺す。そして沢田と獄寺を交互に見てもう一度必要はないと言った。
「ど、どういうことですか、ヒバリさん……」
「あれは僕が創った」
「はぁ?」
「誰かが前に見たらしい映画で水面の上を走る電車を羨ましがっていたから、雨を降らせるついでに」
「ついでに……」
 雲雀は大きくあくびをして獄寺にもたれかかる。そして猫のようにすり寄って立ったまま静かに寝息を立て始めた。完全に会話の流れに置いて行かれた沢田と獄寺は顔を見合わせて首をひねった。
「……ヒバリさんって創造主か何か? 本当にただの人間?」
「ちょっと……分からないですね……」
「どういうこと?」
「さあ……」



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