Rabbia di Tempesta・前


※山+獄+綱
※アラG未満
※マジで未満です
※獄と雲は+関係
※捏造しかない
※n年後
※人が死ぬ描写があります
※アニオリのT世ファミリー編を通ってきた世界線
※本当に捏造しかないです
※あらゆることがゆるゆるなので気になっても目を瞑っていただけるとありがたいです
※読んでからの苦情は受け付けませんのでご了承ください






 炎が赤く立ち上る。すべてを焼き尽くして何もかもを葬り去るような勢いだった。
 森が焼けていくさまを唖然と見ているしかなかった。暗く濁っていた曇り空さえも炎の赤色に染まりおぞましく変わっている。
 あと一瞬声をかけるのが遅ければ、この森は本当に全てを焼き消されていたかもしれない。それほどまでに彼は怒りにその身を焼いていた。この炎は彼の怒りだ。
 綱吉は彼の近くに降り、その背中を見つめた。
「獄寺、くん……?」
 背中は他の何よりも雄弁に彼の怒りを語る。嵐の炎に照らされて紅に燃えた背中は綱吉の声に反応して少し動いた。
 ごうごうと燃え続ける炎の中、彼がゆっくりと振り向く。
 手には弓を携え、髪は荒々しく赤に染まっている。怒りを抑えきれずにいるその顔には炎が燃えるような刺青が走っていた。
 それはまるで──……。
 綱吉は言葉を失い、目を見開いた。
 獄寺の翠の瞳は炎を映したかのように赤く揺らめく。その怒りを鎮火する雨は降っていない。

Rabbia di Tempesta

 20XX.□□.□□報告。
 ボンゴレの同盟である■■■■ファミリーが敵対していた■■■ファミリーからの襲撃を受けたという知らせが届く。元々冷戦状態で均衡を保っていた両ファミリーだったが、ボンゴレの同盟側のファミリーのボスが暗殺に遭い、その均衡は崩れた。未遂に終わった暗殺だったが複数人の証言により敵対ファミリーの暗殺者によるものだと判明し、表立った抗争が勃発するに至った。
 ボンゴレ側は同盟ファミリーとの条約により、後方にて抗争を支援。日本での任務のため現地に不在であった晴れの守護者雷との守護者、組織の活動に非協力的な雲の守護者と霧の守護者を除いた嵐の守護者と雨の守護者と大空の守護者が戦闘員として立ち、抗争に参戦。
 中略。
 20XX.□□.□□報告。
 抗争勃発より二日後についての記録。敵対ファミリーの増援により勢力はひっくり返り、事態は急変する。増援で到着した匣兵器保持者の圧倒的戦力により、同盟ファミリーの戦闘員は殆どが戦闘不能に陥った。そのため、後方支援に徹していたボンゴレの守護者が前線に出ることとなり、戦線はボンゴレ主体に変わった。
 中略。
 西の戦線にて雨の守護者・山本武が敵対ファミリーの増援軍の主導者と衝突。相手の匣兵器保持者の属性は霧であり、対幻覚の戦いに優れている山本の戦況に問題は無いと思われた。しかし不意を突かれ負傷し、加えて増援軍の他戦闘員が到着して多数に囲まれたことにより、戦況は不利へと一変する。
 瀕死の重傷に追い込まれた時、遅れて現場に到着した嵐の守護者・獄寺隼人の遠方からの支援により一命をとりとめる。結果敵対ファミリーは壊滅、同盟ファミリーの戦闘員においても六割の死亡が確認された。ボンゴレ雨の守護者山本武は死亡にまでは至らなかったものの意識は未だ戻っていない。これにより■■■■ファミリーと■■■ファミリーの抗争は収束に至った。
 収束後の処理については事項記載により以下略。
「……以上です」
 綱吉は手渡された報告書に目を通し、顔を上げた。
 目の前にはいつも通りスーツを完璧に着こなした右腕が立っている。しかしスーツ以外があまりにいつもとは違い、思わず反応が遅れてしまう。瞬きをしてまじまじと見ていると、獄寺と目が合った。紅い瞳が綱吉をまっすぐに見つめる。
「十代目?」
「あ、いや、ごめん。……ご、獄寺くん、その髪と刺青まだ治らないんだよね?」
「……そう、ですね。でも気にしなくて大丈夫っすよ」
 獄寺は自身の髪を触り、困ったように笑った。
 あの抗争以来、獄寺の銀色だった髪は赤く染まっている。それも染料で染めたような赤ではなく、元からそうであったかのように赤いのだ。加えて顔の右側に炎が燃えているような模様が付いている。いくら洗っても取れず、刺青として刻まれているらしいその模様は首筋から腕にかけて這っていた。しかし一番目を引くのはその瞳だった。獄寺の瞳は翠色をしていたが、今は髪の色と同じく赤い。嵐の炎が瞳の中でも燃えているかと思うほど、その瞳の色は異様に目立って見えた。
 その姿は初代嵐の守護者・Gを思い起こさせる。というよりも、Gそのものを映しているかのようだった。髪型は今までと同じく真ん中で分けているし、声も態度も獄寺そのもののはずなのに、ふと見ると初代嵐の守護者に錯覚してしまう。
「獄寺くんの髪とかについては書いてないの?」
 綱吉は報告書をざっと眺めながら尋ねた。すると獄寺の手が伸びてきて書類の下の方を指をさす。
「ここです」
 たった一行。獄寺隼人、身体において外見の変容、健康状態に異常なし。
 そうやってまた、自分はすぐ後回しにする。しかし今回のものは獄寺自身深く言及したくはないのだろう。報告書の獄寺が行った支援についても記載は曖昧だ。本来なら咎めるべきだろうが、綱吉自身あの惨状を見てしまっては何も言えなかった。
 もう一度顔を上げ、説明を続ける獄寺を横目に見ながら先日のことを思い出す。
 重傷を負った山本の元へ駆けつけようとした綱吉よりも一足先に獄寺はそこに来ていた。その時にはすでに何もかもが焼かれ、全てが終わっていたのだ。一体何があったのかは綱吉には分からない。けれど森を焼き尽くした炎の中にいた獄寺の怒りに包まれた姿が頭に焼き付いて離れなかった。辺り一帯は嵐の炎により焼き尽くされ、そこら中に転がった焼死体は獄寺の手によるものだと物語っていた。
 その光景を目の当たりにした時、鼓動は速まり、身体からは嫌な汗が噴き出した。目の前に立っている友人があってはならない姿になってしまうかもしれないと嫌な予感が頭を占めた。
 しかし、結果は姿は変わっても怒りなど無かったかのようにいつも通りの獄寺に戻っていた。変わらず業務をこなし、綱吉の右腕として働いている。あまりに普通過ぎて逆におかしいくらいだ。一番慌てそうな本人も受け入れてしまっている。
「十代目? 大丈夫ですか?」
「……えっ?」
 獄寺が心配そうな顔をして綱吉を見ている。
 いつの間にか説明は終わっていたらしい。
「ご、ごめん、ちょっとぼーっとしちゃって……」
「お疲れなら少しお休みになってはどうですか?」
「ううん、大丈夫。ごめんね」
 働きすぎているのはお互い様だ。
 抗争の事後処理も結局ボンゴレが主体で行っている。本来なら取り仕切るべき同盟ファミリーは自分たちの後始末に追われそれどころではなく、信頼できるボンゴレに任されたということだった。おかげで山本の容態も碌に心配できないまま三日間働きっぱなしだった。
 綱吉は力なく笑いながら横に置かれたベッドに目をやった。
 白いベッドには山本が横たわっている。静かな病室には獄寺と綱吉と山本の三人だけしかいなかった。
「……山本、早く目覚めるといいね」
「医療班によれば後遺症も残らず済んだそうですし、すぐ覚ましますよ」
 あいつ元気だけが取り柄なんで、と獄寺が笑う。
 何も心配しなくても大丈夫だと医者も言っていた。
 しかし獄寺のその言葉はどこか獄寺自身に言い聞かせているような気がした。心配はししなくていい、山本はすぐに目を覚ます、と口に出して落ち着こうとしている。
 獄寺はスッと笑みを引っ込めて視線を落とした。獄寺の紅い目が薄暗く光ってただ一点山本を見つめる。その瞳の奥にはまだ怒りが燻って消えないでいるのではないだろうか。

 十年後の未来の決戦にてボンゴレファミリー初代守護者から受け継いだリングは、元の時代に帰った後の継承式でシモンファミリーのボスである古里炎真の手によって破壊された。しかしその後、ボンゴレリングは姿を変え、十代目守護者にふさわしいボンゴレギアとして生まれ変わった。その際に、リングに宿っていた初代ボンゴレファミリー守護者の意志もともに受け継がれたとされている。
「獄寺くんに初代嵐の守護者のGって人が乗り移ったって感じなのかなぁ」
「そんなまさか」
 休憩室の一角、入江正一と綱吉はコーヒーを飲みながら休みを取っていた。
 エンジニアである入江もまた今回の件で様々動いている。主には獄寺の身体変化の調査を行っているが、健康状態も異常なし、炎それ自体にも変化はなく、調査は滞っていた。加えて獄寺があまり協力的ではないのだ。調べようとするとそれより自分の仕事が大事だと言って逃げてしまう。
 入江はいい具合に冷めたコーヒーを飲み、ため息を吐いた。
「何も異常はないからって呑気なのかな、彼は」
「そういうわけじゃないと思うけど……」
「そっちの仕事は大体終わったって聞いたから会いに行ったのに追い返されたよ」
 抗争が終わってから五日が経ち、ようやく綱吉や獄寺がやるべきことは方が付いた。あとは部下に任せておけば何とかなるだろう。そのため獄寺には休むように言い渡したが、きっと綱吉が想像したとおりに休んではいないだろう。どこかワーカーホリック気味の獄寺は休みだと言っても常に何かをしていなくては気が済まない。
 綱吉は軽く頭を抱え、肩を落とした。
「獄寺くん頑張りすぎちゃうから心配なんだ……」
「僕が言えたことじゃないかもしれないけど、一度ベッドに縛り付けて休ませた方が良いんじゃないかな?」
「ハハハ、それが得策かもしれないと思っちゃうのが怖いところだなぁ……」
 笑い事では無いのだけれど。
 入江は苦笑ながら席を立った。コーヒーの紙カップをゴミ箱に捨て、「それじゃあ」と言って上着を着直す。
「僕はもう行くよ」
「うん、ありがとう」
「……そう言えば、綱吉くんたちは初代ボンゴレファミリーの守護者たちがどんな人たちか知ってるのかい?」
 入江の言葉に綱吉は瞬きをして首を捻った。
「何度か見たり会ったりしたことあるんだよね?」
「うーん、会ったっていうか……」
 実際には対面したのはリングに宿った思念体のようなものだし、その時代の彼らというのはシモンファミリーと戦った際に見た過去の記憶でしか知らない。それだけで彼らがどのような人物だったか判断するのは正しいと言えるだろうか。
「もしかしたら、ボンゴレギアを通じて初代嵐の守護者が獄寺くんに同調したか、あるいは獄寺くんが嵐の守護者に同調したか。その影響でああなったのかもしれないと思ってさ」
「同調?」
「共感とか、同情とか、想いや感情がシンクロしたのかも」
「それでああなるってこと?」
「根拠もないただの憶測だけどね。でも死ぬ気の炎やリングは使用者の気持ちに大きく左右されるし」
 そう言い残して入江は休憩室を出て行った。
 同調という言葉が頭に残り、再びあの時の獄寺の背中を思い起こさせる。
「怒り……?」
 あの時あそこにあった感情はただそれだけだった。

「初代嵐の守護者ってどんな人だった?」
 山本の病室で獄寺と綱吉は何をするでもなくただ座っている。
 仕事が済んで暇なのだろう。綱吉も獄寺もいつの間にかこの病室に足を運んでいるのだ。未だ眠ったままの山本の隣に座り、その静かな顔をじっと見ている。
 獄寺は綱吉の言葉にほんの少し遅れて反応し、顔を上げた。
「初代嵐の守護者っすか?」
「獄寺くんは何度か会ったことあるよね」
「そうっすね」
 十代目の守護者は皆、何度か初代守護者を知る機会があった。それはリングに残った思念であったり、約束に刻まれた記憶であったり、様々だ。綱吉自身も初代嵐の守護者を見たことがある。あるからこそ、今の獄寺の姿を見た時にいるはずのない初代嵐の守護者を思い浮かべたのだ。
 綱吉から見た初代嵐の守護者は非常に理性的な男だった。冷静で芯が通った、言ってしまえば出来た人間だったと思う。初代大空の守護者であったボンゴレプリーモの幼馴染であり、右腕だった。そんな男に対して、獄寺はどう思っているのだろう。今を生きる綱吉たちにとってボンゴレ初代は遥か昔の話だ。こういう機会でもないとわざわざ話題に出すことはあまりない。
 獄寺は少し考えるように目を伏せ、おもむろに口を開いた。
「……あまりこういうのは言うべきではないんですが、オレにとってあれは……あの人は、超えるべき壁なんすよ」
「壁?」
「オレは今までもこれからもあなたの右腕でありたいですから」
 獄寺が目を細めて微笑んだ。瞳の紅がほんの少し柔らかく光った気がした。同じ笑顔でも昔とは違う。まだ自分たちが中学生だった時、獄寺の笑顔はもっと子供っぽくて無邪気に見えた。今は余裕ある大人の笑みを見せるのが上手くなった。悪いこととは思わない。それは変化で成長だ。初代嵐の守護者を目標としてこれまで彼が歩んできた軌跡のようなものだろう。
 初代嵐の守護者もこうやって笑ったのだろうか。その隣には親友がいたのだろうか。
 綱吉も少し照れながら釣られて笑った。かつての彼らがそうであったように、自分たちもまた笑っていたいのだ。


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