後日談「きっと貴方は恋の射手」


注意)
・本編終了後の話
・ガイ先生の怪我治っているのでご注意
・カカシ先生が少々ポンコツです。


***


ガイが手術を受けてから二ヶ月が経とうとしていた。
その間にカカシは六代目火影になり、毎日見舞いに来ることが出来なくなってしまった。代わりにサキが顔を出すようになった。

というのもリハビリと監視のためだ。テンションが上がって勢いのまま動こうとすると毎度制止の声が入る。

今日も二回怒られた。
怒らせたら怖いという印象が抜けず、サキから馴れ初めを聞きだそうなんて思えなくて、未だカカシとサキの関係についてはよく知らない。

少しくらい仲睦まじい二人を見てみたいなと淡い期待を寄せている。が、本当に隙がない。
ガイはたまたま二人が恋人同士であることを知ってしまったけれど、よーーく観察すれば恋人に見えなくもない塩梅で二人は生活をしている。

一度カカシに訊ねたことがある。恋人であることを隠しているのかと。
そしたらカカシはこう言った。

『わざわざ言うことじゃないでしょ』

これだ、これ。カカシもサキも自分の肝心な部分を話したがらない。里中の皆が知るべきだとは思わないが、せめて身近にいる人間にくらい教えたら良いのに。
そうしたら多忙な二人が共に過ごす時間を増やせるかもしれないだろうに。

これはもしかして、俺の出番なのではないか。
二人の恋の射手たる俺が!!!


***


その日はガイの退院祝いで教え子たちを交えて焼肉屋に集まった。カカシ、サキの他に第七班、第八班、第十班にガイ班のメンバーが集まった。
大人数なので奥の大きな畳部屋を借りて、皆で肉を突いた。ローテーブルの端には大人組が座って、その横のテーブルに教え子らが座り、はしゃいでは席を入れ替わっている。
ガイの隣にはサキが座っていた。これはガイがハメを外さないように見張るためだ。
向かいにはカカシとヤマトが座っている。紅は子供の世話があるので欠席だ。この大人テーブルにフレッシュさはなくゆったりと食事をしていた。

「サキよ。俺は今日で退院だな」
「そうですね」
「酒を飲みたいのだ。祝い酒として」

サキは当然酒を飲めない。尾獣に人間の年齢が適用されるか微妙だが、同期が酒を飲める歳になるまでは飲まない方が無難だろう。
サキはカカシとヤマトを見た。この二人はいまだにソフトドリンクを飲んでいる。カカシと目が合うと「俺たちも付き合うよ」と快諾した。

「でも、あまり飲みすぎないでくださいね」
「無論だ。だが、酔うと楽しくなるのは仕方ないことだから多少テンションが上がっていても気にしないでくれ」
「分かりました。私はお酒飲めないのでナルトたちの方に混ざってきます」

サキは席を立った。カカシと離れてしまうのに名残惜しさは微塵も感じない。まあ普段から一緒にいるからかも知れないが。

「何頼むの?」
「これだ!カカシ、ヤマトも付き合え!」
「げ、お前それ」
「焼酎ですか。いいですねー」

ガイは焼酎をボトルで頼んだ。それと一緒に氷と水がやってくる。
焼酎水割り、ガイの好きな飲み方だった。

「俺はドクターストップがあるので程々にするが、二人はたくさん飲んでくれ」

ガイは三人分の水割りを作って、その一つにストローを差した。カカシは嫌そうな顔をしてマスクの下からストローをいれる。

「ガイ、もしかして俺を酔わせようとしてない?」
「お、バレたか。知っているか、ヤマト。カカシは焼酎を飲むとすぐに酔う」
「そうなんですか!良いことを知りました。ね、カカシ先輩」

普段カカシに良いように使われているヤマトは不敵に笑った。それが癪でカカシは心無い言葉を返す。

「ヤマトは月末まで休みなしにしよう。火影特権で」
「それはあんまりだ!?」
「年下をいじめるな、カカシ」

カカカとガイが笑う。いくら火影でもそんなの反則だとか、鬼だなんだとカカシの隣に座るヤマトが次々に愚痴を溢す。

「こうなったら先輩の記憶を飛ばすしかない」
「は?」
「もう一本お願いします!」
「おい、ヤマト」

ヤマトは追加でもう一本焼酎のボトルを頼んだ。まだ一本目も空いてないのに。ヤマトはペースを上げた。ガイはそれに合わせてカカシの分の焼酎も作った。
勝手に飲み比べが始まり、カカシはため息をつく。
だが今日の主役であるガイが嬉しそうに渡してくる酒を断るのは気が引けたので、ガイが楽しいならいいかと酒を飲み続けた。



「すぐ酔うとか言って全然酔わないじゃないですかあぁ、先輩い」
「ヤマトは下戸だったか」
「本当にね。俺も流石にもう飲めない」

焼酎のボトルは一本目が空になって二本目を空けようとしていたところだった。二人とも酔っ払っていて、ヤマトなんかはきゅうと音を立てて畳に横になった。

「この勝負カカシの勝ちだな」
「はー、なんでも良いから酒以外のもの頼んでよ」
「ならデザートでも頼むか。向こうもフルーツを食べているようだし」

カカシの顔はだいぶ赤々として、口数も少ない。
二人で隣のテーブルを見ると教え子たちがフルーツ盛り合わせを食べていた。
その中で比較的奥に座っていたサキがすぐに視線に気づいて、こちらを向いた。

「どうしたの、サキ?」と彼女の向かいのサクラが言う。

「カカシさんとガイさん、かなり酔っ払ってるみたい」
「本当。顔真っ赤ねー」
「大丈夫かな」
「良い大人なんだし平気でしょ。サキ、早くしないとチョウジに全部食べられちゃうよ」
「うん」

サキはサクラの目線が外れてからニコリとカカシに微笑んだ。それを受けたカカシは目尻を極限まで下げて笑い返す。

最低限のコミュニケーションをとった後、サキは周りに気取られないように視線をテーブルのフルーツへ戻したが、カカシはサキの方を見るのをやめなかった。
感知に優れている彼女のことだから、こうしてカカシが視線を送り続けるのは分かっているのだろう。

一分ほど経ってもカカシが見るのをやめないので、サキはタイミングを見計らってもう一度カカシの方を見た。
こてんと首を傾げた。その表情は何?とでも言いたげだ。


「はー……かわいい」


カカシは溢れるように口にした。

その瞬間ガイは今日一番の笑みを浮かべ、目が据わっていたカカシは段々と己の発言に気づいてガイの方を向いた。

「ふはは、ようやく惚気たな!!続けていいぞ」
「お前ねーッ!」
「おっと、感情が昂ると酒が余計に回るぞ!!」
「ぐ、」
「火影になったお前にも甘えられる人間が出来て、友として嬉しいんだ。ハハハ、そうかそうか!サキは可愛いよなあ」

いつもの理性はとうに酒で流れていた。サキはかわいいと何度も繰り返すガイに腹が立って、いつもなら絶対に言わないことを、いつもなら張り上げない音量でカカシは口にした。

「お前がサキのことを可愛いって言うな!!」

しんと部屋の中が静まり返る。
隣を見れば、教え子たちが二人の様子を伺っていた。最後の言葉なんかは全員が耳にしてしまったに違いない。サキはきょとんとしていた。

「どういう意味の言葉でしょうか」リーが言った。
「え、なに修羅場?」と横でテンテンが困惑する。

皆はカカシ達とサキを交互に見始めた。
カカシは茹で蛸のように顔を真っ赤させて両手で覆い隠した。

「カカシさん、耳まで真っ赤ですね」と冷静に状況を見るサイ。
「え、じゃあカカシ先生ってサキのこと好きなの?」といのが言う。
「ガイ先生も?」とチョウジ。
「いや、流石にそりゃねーだろ。ガイ先生がカカシ先生のこと揶揄っただけじゃねーの」とシカマル。全くもってその通りだった。

「ええ!!カカシ先生ってサキのこと好きなの!?」ナルトがいのと同じことを大声で繰り返した。

カカシは一層指に力を加えて自分の顔を押さえ込む。その時、グローブの布がずれてキラリと手元が光った。次の瞬間サクラが叫んだ。

「結婚指輪してるじゃない!」

いのとサクラはサキの体を揺さぶった。あまりに収拾がつかなくなってきたのでサキは観念した。
席を立ち上がり、カカシの隣にそっと座った。
全員が二人の行動を黙って見守っていた。
サキはカカシの耳元に顔を寄せた。ごくりと誰かが唾を飲んだ。


ーーバラしちゃいましょう


手を退けたカカシはそれはもう潤んだ瞳でサキを見つめた。アルコールのせいで理性がうまく制御できなくて、皆の前なのも忘れてサキを抱きしめた。

向こうのテーブルからきゃあと黄色い声が上がる。
サキはポンポンとカカシの背中をさすった。

「……ガイが悪い」
「ガイさんが意地悪でした。明日懲らしめましょう」
「うん」
「しばらくお酒ははやめておきましょうね」
「うん」

カカシはサキを離した。
サキが嫌々振り返るとナルト達はサイ以外赤面していた。恥ずかしさでどうにかなりそうで。
サキはそれを我慢しながら、最後に頑張った。

「そういうことだから!」

サキは急いでテーブルの上にお金を置くと、カカシの手を引っ張って大部屋から出た。
歓声が上がる前に襖を閉めて、サキはカカシと共に家に帰った。


***


後日、ガイはサキからしこたま怒られた。
暴露されたことに対してではなく(実際暴露したのはカカシだし)、カカシに酒を飲ませすぎたことに対して。
あの後カカシの具合が悪くなるは、責任を感じて泣き言を言い出すはで大変だったらしい。
サキはなんとかその持ち前の包容力でカカシを回復させたそうだ。

「さっきからニヤニヤして。反省してます?」
「ああ。してるしてる」
「……絶対反省してない」
「頼んだぞ、カカシのこと」
「……勿論です。ずっと一緒にいるって決めたので」

サキは胸元からネックレスを取り出して見せてくれた。そこにはカカシと揃いの指輪がぶら下がっていた。

「そうだ。昨日初めて聞いたんですけど、カカシさんに狐憑きの話したのガイさんなんですってね」

「カカシさんと巡り合わせてくれてありがとうございます」


きっと貴方は恋の射手(完)


prev      next
目次



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -