説得
=木ノ葉の里 郊外=
白いマントを羽織ってナルト、ヤマト、カカシ、サキのフォーマンセルが草地にしゃがんでいた。
ヤマトの分身が雲隠れの忍の靴に"送信木"を仕込み、それを頼りに尾行が開始された。
あんなに反対していた割には、いざ始まると任務には乗り気なヤマトを見てサキは微笑んだが、カカシは眉をハの字にしていた。
雲隠れの忍が向かうのは五影会談の開催地になるはずだ。彼らは雷影に会おうとしているのだから間違いない。
どこかのタイミングで会場に行ければいいんだが――そんな風に考えているサキをカカシは黙って見守っていた。
=鉄の国=
「ハクショイ!!」
盛大にナルトがくしゃみをした。
鉄の国に入り、雪が降ってきたのだった。辺りは白く、木を足場にするたびに雪がハラハラと下に舞い落ちていく。あまりの寒さにサキももう少し着込んで来ればよかったと心の中で嘆いた。
尾行を開始して数日、雲隠れの忍が立ち止まったため、ナルト達は岩陰に隠れて様子を伺った。
すると向かいから木の上を渡っていた雷影一行が降り立った。
雷影は雪にも関わらず、上は赤褐色の地肌に羽織一枚という超薄着だった。護衛には同じく赤褐色の体格の良い白髪男と色白で細身の金髪男の二名がついていた。
「サムイ、お前尾けられたな……出てこい!木ノ葉の犬共!!」
雷影の護衛の金髪男は感知タイプのようだ。
隠れていてもしょうがないため、ナルト達はすぐに雷影の前に姿を見せた。
何の用かと尋ねる雷影に、ナルトは固唾を飲んで話し始めた。
「サスケを……うちはサスケを始末するのを止めてもらいてーんだ」
「むちゃくちゃ言ってんのも分かってる!でも俺はそう言うしかねーから!サスケは友達だ……友達が殺されるってのに、ただじっとはしてられねーよ!」
「それにサスケが元で木ノ葉と雲が殺し合うのは嫌だから!そっちにも仲間にも復讐はさせたくねーんだ」
ナルトが雪に額をつけて懇願しても、ヤマトとカカシがこれまでの雲隠れと木ノ葉との戦いのことを話してフォローするも、雷影は頷かない。
「犯罪者のために頭を下げ、仲間の安全のために慈悲をこう。忍の世界でそれは友情とは言わぬ。もっと他にやれる事を考えろ。馬鹿のままやり通せる程忍の世界は甘くない」
そして雲隠れ一行は五影会談へと行ってしまった。
「ナルト、もういい。頭を上げろ」
「くっ、、」
カカシの呼びかけに反応を見せずに、ナルトは悔しくて地面を拳で叩いた。
ナルトにとって、サスケという友達は特別な存在だということを知っている。サキにとっての尾獣のように、唯一無二の存在だと。
(ナルトを見てると自分のことが客観的によく見える。もしこれが尾獣のことだったら……)
(ああいう対応は悔しいよね)
サキはナルトの前に座って肩に手を置いた。
「顔を上げて。いくらナルトでも風邪引いちゃうよ」
「……」
「ナルト、次を考えよう」
「……」
「大丈夫だから」
顔を上げたナルトは今にも泣きそうで、自分で立ちあがろうとしない。そんなナルトに少しだけ眉を顰めて、手を引っ張って立たせてやった。
「ここは寒いから近くの宿屋に行こう」
カカシとヤマトからすれば、それはかなり強引に見えたらしく、後でカカシに言及されることになった。
=鉄の国 宿屋=
ナルトが休んでいる部屋の隣にカカシ、ヤマト、サキが各々間隔を開けて座っていた。
「サキはサスケのことどう思っているの?サスケが襲ったのは尾獣と人柱力で、サキの守りたいものでしょ」
カカシの質問にサキは少し考えて返答する。
「私はサスケのこと、ナルトやサクラと同じ熱量で見ているわけじゃないです。勿論里抜けした時は同期として心配したし、連れ帰ろうと思ってましたけど……」
だけどサスケは復讐を選んで、そして里に戻ってこなかった。ナルトやサクラといった元チームメイトの言葉も届かないなら、サキが手出しできるものでもない。
けれど――
「これはナルトの言うように、サスケがマダラに利用されている前提の意見ですが……ナルトが今抱えてる問題と私の問題って似てるんですよね。サスケという犯罪者、尾獣という化物を世間に許してもらおうとしてるところ」
「だからサスケには救いの手があってほしいと思ってますし、それはナルトであって欲しい。自分のことと重ねちゃったからさっきは強引だったのかな。折れて欲しくないって」
「そういう考えだったのね」
「そんなに無理やりに見えましたか?」
カカシとヤマトは顔を見合わせて、少しねと苦笑いをする。サキにしては強引だなと思ったよ、と。
そう言われてサキは反省しながら、外を眺めた。
(後でナルトに謝んなきゃ……)
(それにしても、ビーさんと牛鬼は今どこにいるんだろう。サスケに襲われたのは本当のようだけど、数日前は元気そうだった)
「……ヤマトさん、鉄の国の地図持ってましたよね」
「ああ。どうしたの?」
「確認したいことがあって」
「まさか五影会談に乗り込もうなんて考えてないよね」
ヤマトは顔に影を作って独特の睨みを効かせた。
サキはそれを見て、これは少し怖いかもと普段優しいヤマトの怒る姿というものが想像ついた。
「会談には行きたいんですけど、それより先に確認したいことがあって」
「確認したいこと?」
「八尾の人柱力を探します。まだ生きてるなら探せるかもしれないので」
「な、それ早く言いなさいよ!」
「木ノ葉の里では試しましたよ。鉄の国に来たから感知範囲が広がって可能性がちょっと増えたんです」
サキはヤマトから地図を受け取り、床に広げた。
今いる地点に当たりをつけて、地図の上に手をかざす。
その様子をカカシとヤマトが黙って見つめていた時だった。
三人は隣の部屋ーーナルトがいる部屋の気配が増えたのを察知し、すぐにそちらの部屋へ飛び込んだ。
ドゴンッッ
ナルトが螺旋丸を放った直後で、天井には穴が開いていた。カカシ、ヤマト、サキは各々術を使って対象を制圧する。
「ナルトはじっとしてなね」
「流石は写輪眼のカカシだ。早いな」
暁の黒装束に、渦巻き状の木面。その訪問者はカカシの言っていたトビとかいう暁メンバーだ。そして写輪眼を持っている、十六年前の黒幕で――
「そう簡単にナルトに手は出させないよ、うちはマダラ」
(コイツがマダラ……)
「てめぇはサスケをどうするつもりだ!サスケのことを教えろ!」
ヤマトの作った木遁の檻内からナルトが声を荒げる。サスケを利用しているだろう相手を前にナルトに余裕なんてない。
トビ――うちはマダラは、良いだろうと言ってサスケのことを語り始めた。
「忍世界の憎しみ、恨みに骨の髄まで侵されたうちはサスケの話を。サスケの話をするには、まずはイタチの真実を聞け」
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