亀裂が走った日


=火影執務室=

綱手に急遽呼び出された。沢山の書類に囲まれた机を挟んで綱手とサキは二人きり。
そこでサキはとんでもないことを知らされた。


「同じ班員のユサとヒラだが、暗部のリストに乗っていなかった」
「どういう事ですか」
「……行方不明だ。火影が空席の間、里が殆ど機能していなかったからな。どんな任務があったのか全て掴めていない」
「そんな……ユサとは忍術で連絡とっていて、そっちも繋がらないんです。捜索してもらえないんですか」
「今殆どの上忍、暗部達は最低限の人数だけ残して任務に当たってもらっている。悪いがすぐには動けない」
「なら私に探しに行かせてください!」


綱手は静かに人差し指を立てた。
黙れということではなく――


「もう一つ悪い知らせがある。サキを里外に出すなと相談役らから言われた」
「なっ!?」


相談役は木ノ葉の里の最高意思だ。
綱手を火影にと要請をだしたのもその人達だ。

「暁に誘拐された人間をみすみす里外に出すのか、という事だ」
「ッ、、だけどそんな事言われたら里を出てくしか!」
「ダメだ。大蛇丸や暁を見ただろう。里を勝手に出ていくことは許さん。それに今はこの里も危うい状況だ。耐えてくれないか」
「……せめて条件付けにしてください。上忍の人と一緒なら里を出てもいいとか」
「掛け合ってみよう。当てはあるのか?」
「はたけカカシさん。彼も事情を知る一人ですし、上忍の中でも優秀だと聞いています」
「分かった」


礼をして火影室を出た。廊下に出てすぐに走り出した。


(ユサとヒラが行方不明なんて嘘だ)


サキは足の向くまま里中を探した。
演習場、商店街、住宅街、森の中……だけど見つからなかった。どこにも気配がない。
まさか、と一瞬悪い考えが頭をよぎった。

そんな訳ない、有り得ない。
張り裂けそうな胸中を何とか押さえつけて、サキはまた走り出した。




=木ノ葉の里 慰霊碑=

夕方、吸い込まれるように慰霊碑のある場所にやってきた。
任務で殉職したものの名が刻まれているものだ。
どうしようもない気持ちの中、縋る気持ちでここに来たのだが先客がいた。

(カカシさんだ)


どうしようと思ったところで木の枝を踏んづけ、カカシと目があった。カカシはサキの様子がおかしいことに気づき、ゆっくりと近づいてきた。


「こんなところにどうしたの?」
「……朝、綱手様に呼び出されてユサとヒラの事を聞いたんです。行方不明だって。探しに行きたいのに、相談役の命令で里外に出られなくてなってしまって。今日ずっと里内を探したけどいなくて。死んじゃってたらどうしようって悪い考えまで浮かんで、きて」
「そうか。それは不安で仕方ないね」


カカシはサキの頭をそっと撫でた。

「今日暗部の人間に聞いたけど、ユサとヒラの現状は知らないようだった」

やっぱり、とサキはまた辛くなって、現実から目を逸らすように顔を下に背けた。

「でも死んだって決まったわけじゃない。聞いた話だけどね。昔三代目と火影の座を争ったダンゾウっていう人がいるんだけど、その人が暗部の再編成にかなり手を加えたようだ。勿論綱手様が来る前の時期にね。彼が組織している"根"という団体に引き抜かれたものが少なからずいたそうだ」
「じゃあダンゾウって人に聞けば!」
「でもダンゾウは裏側の人間だ。簡単に会える人ではないし、何の準備もせずに行けば殺されかねないよ。ダンゾウは目的のために手段は選ばないし、敵だと思った人間を簡単に殺す」


ダンゾウは三代目とかなり思想が違うようだ。
ユサとヒラはそんな組織に来いと言われて行くような人達だろうか。
寝返るような人達ではないことはサキがよく知っていた。あの二人は三代目に心から忠誠を誓っていたから。


「……そんな組織にユサとヒラが行くなんて、信じれないです」
「何か事情があったのかもしれないよ。とにかく今は待つしかない。俺も明後日から任務で外に出るから、里外を探してみるよ」
「ありがとうございます」

協力的になったカカシはとても頼りになる。
そして先刻勝手に名前を借りてしまった件について思い出して、改めて本人に願い出た。

「今カカシさん同伴でなら里を出ていいように相談役に打診してもらってるので、許可が出たら一緒に里外に出てもらえませんか」
「いいよ」

面倒くさそうな顔一つせず、カカシは快諾した。これにはもう生意気な口は利けないなと思いながら、サキはまた礼を言って慰霊碑を離れた。




=木ノ葉の里 商店街=

サキは今も入院中らしいサスケの見舞いに行こうと病院に向かっていた。サスケとは木ノ葉崩しの時に我愛羅を庇って戦っていたのが最後だ。


(同じ里の仲間なんだから、あの時のことは謝っておこう)


事前に見舞いの品を買って歩いていると、対向からサスケが歩いてきた。
退院したのか、ととりあえず声をかけてみた。


「サスケ!」
「お前、、」


サスケはかなりやつれていて、機嫌が悪そうだった。
サキは気を失っていて見ていたわけではないが、イタチからうけた万華鏡写輪眼がかなり響いてたのか万全ではないらしい。他の理由があるかもしれないが。


「入院してるって聞いてたからお見舞いに行こうと思ってたんだけど、退院したの?」
「ああ」
「そっか。これサスケに持っていこうと思ったんだけど、貰ってくれない?おにぎりの具なんだけど。昔イノとかサクラから好物だって聞いてたから」
「……」
「我愛羅の件でさ、サスケと戦ったじゃない?そのお詫びも兼ねてるんだけど」


サスケはずっと無言でサキは居た堪れなくなる。


「え、今も怒ってる?」
「お前にじゃない」


じゃあ誰に怒ってるんだという疑問を飲み込んで、サキはサスケに押し付ける形で見舞いの品を渡した。


「お前なんで砂側についたんだ」
「えっ、、えっと」

サスケに尾獣のことは言えないので、サキは言葉を濁した。


「どうしても叶えたい事があって、その為に動いてた」
「里を裏切ることになってもか」
「……掟を破ってでもやらなきゃいけないことだったから。やらぬ後悔よりやった後悔のがいいでしょ」
「フッ、そうだな」

サスケのやつれきった目が一瞬細くなった。

「おお、笑った」
「うるさい」


サスケはかなり疲労が溜まっていそうなので、サキは話をそれくらいにしてサスケを見送った。
これがサキとサスケの別れになった。



その晩、音の忍に誘われ、サスケは里抜けした。
力を求め、大蛇丸の元に行くのだった。




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