約束
=木ノ葉の里 地下演習場=
綱手を探す旅を終え、ようやく里に戻って来れた。
一ヶ月半もの間里の外に出るのなんて初めてで、サキは部屋の掃除のためにと早々に家に帰った。
(暁に投げられたクナイにより割られた窓ガラスがそのままであることを思い出して走って帰った)
ナルトはというと、綱手にサスケを診てもらうんだと病院に行ってしまった。
これから正式に綱手が火影になるのだから、ユサとヒラと組んだ十一班の復活も夢ではない。
掃除を終えて地下演習場に赴き、感知タイプのユサと連絡を取るための印を結ぶ。
(あれ……?)
大抵すぐに返答があるけれど今日はない。
今日はたまたまかもしれない。ユサ達は火影の席が空席の間、暗部として任務に取り組むと言っていたから忙しいんだろう。
そう言い聞かせて、一人裏チャクラの修行を始めた。
=火影執務室=
綱手の五代目就任式も終わり、木ノ葉は里として大きく変わろうとしていた。サキは三代目と約束したことを今度は五代目と結ぼうと火影屋敷にやってきた。
「綱手様、今いいですか?」
「ああ。秘密についてか?」
「はい。ひとまず綱手様だけにお話ししたいのですが」
そう言って、汲み取ってくれた綱手はシズネを退室させた。
「この秘密を知っているのは、私、ナルト、自来也さん、カカシさん。それと以前同じ班を組んでいた暗部所属のユサとヒラになります」
サキは九尾との出会いから暁という組織に誘拐されたことまで順を追って話した。
綱手は両手を組んで口を隠しながら聞いていたが、最初から驚きっぱなしだったろう。全て話した後大きく息をついた。
「なるほど。それで、サキが尾獣の安全性を確立して証明できたら、九尾を自由にしてすることを約束して欲しいのね。三代目と同じく」
「はい。勿論里に迷惑をかけることは避けますし、ナルトに危害は加えません」
「アンタが里のこともナルトのことも大切に想ってるのは知ってる。実際上手くいくかは分からないけど、先代が約束した以上反故にするわけにはいかないね」
「ありがとうございます!」
綱手は大蛇丸との戦いでナルトと同じく命懸けで戦うサキを見ていたため、彼女に対する信頼はかなり大きかった。それに賭場の前で綱手に説教だってした子だ。あの時はクソガキと思ったが、今思えば里想いの良い忍だと思う。
「これからのビジョンはあるのかい」
「まずは全尾獣との接触ですね。他里の尾獣と封印されてる人に会いたいので、積極的に外の任務に行きたいです。そのために早く上忍になります」
「上忍か。中忍試験を合格して、任務をこなしていかないとなれないものだから早道はないね。そういえばサキの班はどうしようか。班員は暗部だって言ってたけど、今再編成でまだドタバタしてるからね」
「可能であれば元のメンバーで組みたいんですが」
「そりゃ秘密を知ってる者同士のがいいわな。ンー、しばしの間保留にする。元のメンバーで組めるように、ユサとヒラだったか。調整してみる」
「はい。助かります!」
=自宅=
綱手に事情を話して次の日の朝、またもユサに連絡を取ろうとしても取り合えなかった。
綱手は仕事で忙しそうでせっつくわけにいかない。
どうしようかと着替えていた時だった。
コンコン
窓から音がしてカーテンを開いた。
するとベランダにはたけカカシが立っていたのだった。
「カカシさん!?」
「久しぶり」
カカシと会うのは、暁に誘拐された日以来だ。
ナルトとの別れの仕方も酷かったが、カカシとの別れ方もなかなか残酷だった。
部屋に通しお茶を出す。ダイニングテーブルで対面に座ると、前に秘密を明かした日と似た状況になる。ナルトはいないけど。
カカシの前だとやけに緊張してしまう。
別れ方の酷さもあるが、それよりも額当ての下にある眼が怖かった。
目を合わせずにとりあえず口を開いた。
「カカシさん、入院してたって聞きました」
「昨日退院したんだ。綱手様に診てもらえたからね」
「良かったです。えーっと……」
(暁に捕まったこと怒りに来たのかな。先に謝る?)
(でもあの状況じゃさ。それとも写輪眼が完全に弱点って敵にも分かったから訓練するとか言い出すんじゃ……)
サキがだんまりを決め込んでいるので、カカシの方が先に口を開いた。
「暁に捕まった日、助けられなくてすまなかった」
「え……???」
怒られると思っていたサキはカカシが謝ってきたことに驚きを隠せない。失礼だが耳を疑った。
目を何度も擦って現実であることを確認する。
ナルトがカカシ先生は凄いと言えども、サキは内心ハア?と思っていたし、ナルトや他の生徒にいくら優しくても自分には絶対そんな扱いはないと思っていた。
「それに写輪眼を見せたことも。度が過ぎたと思ってる」
「本当にカカシさんですか」
「俺だよ。まあお互い信用なんて縁遠かったもんね。サキが秘密を明かしてくれたのに、裏切るようなことして本当にすまなかった」
心からの謝罪だ。それを汲み取れないほど子供じゃない。
「……裏切りなんて思ってませんよ。写輪眼見せられた後はムカつきましたけど。でも暁を前にした時は誰より先に駆け寄ってくれたし、今だって謝ってくれて。その、、、だから、もう怒ってないです」
カカシは苦笑いを浮かべてありがとうと言った。
サキが口で許しても、カカシ本人は納得してないようだ。サキと目が合わない。大変なトラウマを植え付けてしまったと。
「綱手様が就任されたからきっと十一班も復活するだろうし、俺はもう君には関わらないよ。そっちのがいいだろう」
「な、、」
「秘密は明かさない。それは約束する」
「そんな罪滅ぼし要りません。それに私現在進行形で困ってます。ユサとヒラと連絡つかないんです。だからカカシさんの役目はまだ終わってません!」
勝手に謝って、勝手に去ろうとするカカシをなんとか引き止めた。カカシが謝ってくれたことでようやく諸々のわだかまりが解決できそうなのに、この状況を逃すわけにいかない。尾獣のために足は止められない。
写輪眼が怖いなんて言ってられない。
「私急いで上忍になりたいんです。そのために力をつけたい。だけどユサもヒラもいなくて心配だし、一人じゃ修行も捗らないし、綱手様だって今は就任して間も無くで忙しいんです。頼りきりは出来ません」
「……」
「カカシさんしか頼れる当てがないんです。お願いします。離れるなんて勝手に決めないでください!」
カカシはサキに向き直った。必死な顔は我愛羅のために中忍試験に割って入った時を思い出させた。
怖いのを我慢して震えて縋ってくるのだ。
(この子は本当に真剣に、命懸けで夢を叶えようとしてるんだな)
「分かった。離れないよ」
カカシはユサとヒラが戻るまで、時間がある時は地下演習場で修行をつけてくれると約束してくれた。
更にユサとヒラについても、現暗部の知り合いに状況を聞いてくれると言うのだ。
頼りになるエリート忍者だとサキはホッと胸を撫で下ろす。
「サキが戻ってきてくれて本当に良かった。これからよろしくね」
「私もあの時は逃げられなくてすみませんでした。それで……その、弱点はゆっくり克服できたらって思います。だから頼りにしてます」
サキもカカシも初めて互いに笑顔を向けた。
四年前初めて会った頃から、どこかすれ違っていた二人がようやく手を取り合ったのだった。
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