修行開始


=火の国 繁華街=

必要物資を買いつつ、ナルトと残りのお金で遊びながら、最後にイカ焼きを三本買って自来也の元に戻った。

自来也は美人のお姉さんを両脇に抱え、酒を飲んではゲラゲラと笑っていた。エロ仙人と呼ばれる所以をサキは初めて目の当たりにした。

うわあ、と内心引いているとナルトは店内のテーブルの上に干からびてしまったカエル――ではなくカエルの形をした蝦蟇口財布を見つけた。

「忍の三禁もっかい自分で言ってみろ!!」

酒・金・女、、、、

「いきなりトリプルで破ってんじゃねーぞ!コラァ!!」

ナルトは両手にイカ焼きを握りながら自来也の胸板をポカポカと殴った。そして勢い余って左手のイカ焼きがスポンと後ろに飛んでいった。

ベチャッ


飛んでいったイカ焼きは、真っ白な布に当たり床に落ちた。

「くらあああああ!!何しとんじゃガキがあ!」

いかにもカタギでない柄の悪いおじさんが二人。
自称十万両のブランドスーツを弁償しろと怒鳴ってきた。

いくら何でも高すぎると抗議しても値下げはせず、払えないというナルトに男は暴力を振るおうとした。

その間に自来也が割り入った。

「丁度いい。今からお前に教える術を見せてやる。よく見てろのォ」

格好つけてそう言った自来也の右の手の平には風が生まれ、小さな台風のように渦を巻いている。球状に維持されたそれを自来也は白スーツの男にぶつけた。

「おわああああああ!!!」

男はバーを突き抜け向かいの水風船の露店に勢いよく飛んでいった。屋台の組み木が折れてめちゃくちゃだ。
難癖つけてきた男を去なすはずが被害が大きくなってしまった。

「これ修理代だ。悪いの、屋台をめちゃくちゃにして」

自来也は自身の財布から札を出して屋台の店主に手渡した。
突然の光景に屋台の店主も通行人も口を開けている。

「ついでに水風船と風船を全部もらっていくがいいか?」
「ああ……?」

「ナルト!サキ!ついて来いのぉ!修行だ!」



=火の国 繁華街の外れ=

自来也の後ろを歩いて、繁華街の外れにやってきた。
木々がまばらに生えた場所に来ると、自来也は先程の屋台で買った水風船をナルトに投げ渡した。

そして自来也は先程の術の第一関門、回転について説明した。水風船の中の水をチャクラで押し流し、割る修行だ。

「今日は夜までいくぞ!」
「おっす!」

ナルトが水風船を片手に乗せて回転の修行を始めると、自来也はサキの方を向いた。

「サキにはまずこれまでの事をもう少し詳しく話してもらおうかの」
「はい」

ナルトが見える木陰に座り、サキは前にナルトとカカシに伝えたことを話した。
裏チャクラのこと、尾獣の自由化を目指していることを含めて全て。ただし、また前世が尾獣であることは隠した。記憶もないし、直感的に避けた方がいいと思ったからだ。

(九尾怒るだろうもんな。ややこしくなる、絶対に)

「ふむ、その裏チャクラを見せてくれるか」

サキはその場に立ち上がって手を合わせた。
今のところ裏チャクラを取り出すには紅鎖を使う以外に方法がない。

ジャラジャラ……

自来也は手に顎を乗せてじっと観察した。


「どうですか?自来也さん」
「……ふむ。サキの課題はやはりそのチャクラだの。まずはコントロール出来る様にならんとな。他にそのチャクラで使える術はあるか?」
「いえ、無いです」
「得意な術は?」
「結界術です!色々使えます」
「じゃあその裏チャクラで今使える結界術を再現する修行をしてもらう」
「裏チャクラで?」
「チャクラは使えば使うほど、練りやすく扱いやすくなってくるからの。そうすれば、自身のチャクラが空になったとしても、裏チャクラが暴走しなくて済むだろう」
「なるほど。流石自来也さん!」
「消費チャクラが少ない術からこなすんだぞ。いきなり大きなチャクラを練ればまた暴走しちまうからのう」


サキは頷いて離れたところでチャクラを練った。

イタチに言われた通り自分の中で渦巻くチャクラを意識して循環させる。少しずつ栓を緩めて――


(??)

(これどうやって普段の印に繋げるの?)


裏チャクラと結界術の印とが噛み合わない。
体内でチャクラが流れる感覚は分かるのだが、アウトプットが上手くいかない。

サキが初っ端から苦戦するのと同じく、ナルトも水風船を割るのにまだまだ時間がかかりそうだった。

その日は全く進捗なく、病み上がりなのもあってナルトより早く宿に戻った。

裏チャクラについて知らなすぎる。それに前世についてあまりに無知だと。
守鶴には前世は関係ないと説教したくせに、前世が気になってしょうがない。あの状況ではそう言うしかなかったから仕方ないが守鶴には聞きづらい。

ならば九尾に聞けば何か教えてくれるかもしれない。





=精神空間 九尾=

久しぶりに感じる黄みがかった薄暗い九尾の空間。
実家のような安心感とはこの事を言うのではなんて心の内で思う。

「久しぶり」
「しぶとい奴だ。あんな連中に捕まったくせして」
「あはは。運が良かったよ。心配してくれてたの?」
「馬鹿言え」

九尾はフンと鼻で笑い、牙を見せた。相変わらずの憎まれ口。
以前と変わらぬ空気感に落ち着いて、サキは本題を話し始めた。

「聞きたいことがあってさ、裏チャクラの事なんだけど」
「ああ」
「あれって前世のチャクラなんだよね」
「……お前いつ前世のことを知った」
「守鶴に会った時。あ、、、、ごめん。色々あって伝えるの忘れてた。生まれ変わりの件も確認したかった」
「あの狸野郎」

九尾は檻の中でビタンビタンと尾で床を叩いた。
触らぬ神に祟りなしだ。なんでそう邪険にするのかは触れないでおこう。

「私の前世って尾獣だったんだね。ビックリしたよ。まさか自分のせいで尾獣が封印されてたなんてさ」
「……」
「過去の事は全然思い出せないんだけど、凄い巡り合わせだよね。また九尾や守鶴に会えるなんて」
「巡り合わせか。確かに出来過ぎだな」
「前世の繋がりが起こした奇跡ってやつかな。やり直すチャンスをくれるなんて」
「馬鹿言え。そんなに綺麗なものか。因縁だ因縁」


「九尾はなんで前世のこと教えてくれなかったの?初めて会った時から私のこと気づいてたんじゃないの」
「ワシが記憶がないか聞いたらお前は無いと断言したな。だから何も言わなかっただけだ」
「じゃあ今は?」
「……勝手に忘れたんだ。自力で思い出せ」


九尾は前世の話についてはあまり乗り気でないようだ。生まれ変わりだと気づいても隠したいみたいだし、裏切り者だと初見で罵った守鶴とは異なる考えを持ってるようだった。


「じゃあ裏チャクラについては?コントロールできなくて苦労してるんだけど」
「お前が裏チャクラって呼ぶのは確かに前世のチャクラだ。だがコントロールの方法なんか知るか。修行してるところなんて見たことがない。"アイツ"は何でもできたからな」
「何でも?」
「どんな術を使えたかは教えてやる」


九尾は渋々術のことについて話し始めた。


「まずお前は世界各地に九つの結界を張り、尾獣の住処を確保していた。人間が入り込めないよう結界周辺の空間を歪めたりな」
「ずっと昔に話してくれた、人間と離れて住んでた時代だね。私その時から結界術得意だったんだ」
「ああ。それに再生能力を持っていてどんな傷も治せたな。あとは木や水、砂なんかを操っていた」

それに記憶改ざんと瞬間移動と……これでもかというほど術が使えたみたいだ。

「結界に時空間忍術に再生能力に自然物の操作に記憶操作って、そんなに?」
「神のような力を持っていたな。ハッ、今のお前に使いこなせるわけねえな」
「うん……流石に無理な気がする。とりあえずあの手この手でチャクラコントロールだけは頑張ってみるよ」


檻に背を向け、もう帰ることを告げた。
サキの後ろ姿を見ながら、九尾は前世のサキを思い出していた。
尾獣は通常死んでも元の姿のまま復活する。何故サキは記憶も力も無くしてしまったのか。
その理由は記憶が戻らない限り明かされないだろう。元凶である男はもう故人となっているのだから。


「前世が尾獣だってこと人間に言ってないだろうな」
「言ってないよ」
「賢明な判断だ。尾獣が尾獣の解放目指してんじゃただの反逆だからな」
「……いずれは話さなきゃいけないけど、今じゃないかなって。記憶が全部戻ったら話すことにするよ」
「思い出せば人間なんか嫌いになるだろうよ」
「そんな事ないよ。私は人間でもあるから」


***


修行を開始してから早いもので四日目になった。
とにかくアウトプットの方法が分からない以上、ここ数日は体内で裏チャクラを流し続けることに専念していた。慣れが大事。


「サキも時間がかかっとるのう」


修行開始前に自来也が痛いところをついてきた。


「やはりそのチャクラは扱いが難しいか」
「はい。裏チャクラが印とうまく絡んでくれないんですよね。どうしても印を結ぶと通常のチャクラに切り替わってしまって」
「ふむ。一つ座学的な話をしようかの」

自来也は木の枝を使って地面に文字を書いた。
"精神エネルギー"と"身体エネルギー"を横並びで書きそれぞれ丸で囲う。

「まずチャクラってのはこの二つのエネルギーを同時に練り上げて得られる力ってのは知ってるな」
「はい」
「サキの裏チャクラってのはこの二つのエネルギーから得られるものではない。全く別の手段から成る力だ」

自来也は地面に"裏チャクラ"と書いて、先程の二つのエネルギーと分けるように仕切り線を引いた。

「んで、忍術を使う上で印を結ぶわけだが、理由はわかるか?」
「術発動のための手引書って理解です。発動までの補助や威力増強のためだとアカデミーで教わりました」
「ふむ。ナルトと違って賢いの」
「授業はきちんと出てたので」
「だがワシの考えは逆だ。裏チャクラで術を発動するためには印は不要だと思っとる」
「え!!でも、、え!?」
「紅鎖は特に印なんて使っとらんかったろう。チャクラの根源が全く異なる以上、術の発動、ようはアウトプットの方法だって全く異なることだって考えられる」
「……確かに。じゃあ、、だから印無しかつ裏チャクラでのアウトプット、、、難易度上がってません!?」
「まあナルトと共に頑張れ。ワシはもう行く」


自来也はまた街の方に戻っていった。怪しげなスタンプカードをぶら下げて。

しかし、まさか印が要らないとは盲点だった。
だが確かに尾獣が己のチャクラを使う上で印なんか結ぶのかって話だ。九尾も守鶴も動物だし。

思い返せば八歳の頃に紅鎖を使った日も、裏チャクラが暴走した後に改めて紅鎖を使えるようになった時も確かに印なんて結ばなかった。


(大事なのはむしろ正確なイメージ)


サキは両の手を合わせて裏チャクラを練った。
頭の中で印を唱えながら、結界の完成形を思い浮かべる。鮮明に鮮明に、赤色を思い出す。


パリンッ


窓ガラスが割れたような音がした後、空間がキラキラと光る。一秒あったかなかったかぐらいの短い時間だが、確かに一瞬見えた物は、サキが初めて覚えた結界術の"四方紅陣"だった。

成功とは言えないが、大きな進歩だ。
サキは自来也の助言の的確さに感動しながら半日にわたって"四方紅陣"の再現修行を行った。



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