暁との遭遇


=自宅=

朝日が部屋に差し込んできてサキは目を覚ました。
泣き疲れた影響で頭は痛いし、ずっと気持ちが晴れない。

カカシは事情を聞いた後、自分の弱点を洗い出すためと言い、拷問まがいのことをしてきて。
ナルトとは喧嘩をしてしまい。
ユサとヒラは暗部の任務で頼れない。

良くないことが連続で起こるものだから、九尾や守鶴に会いに行く気分でもなかった。
それに九尾たちに弱い部分を見せるのは何だかダメな気がしたのだ。

(ああ、でも九尾に生まれ変わりの件は確認しておかないと)

いつもの起床時刻はとうに過ぎているのに、未だにベッドの上から起き上がれずにいた。

そのとき、突然パリンと隣のリビングの方で窓ガラスが割れた音がした。身の危険を感じ、何事だと直ぐに寝室から出ていく。じっとドア越しに身を隠してリビングの様子を確認すると、ベランダと向かいの壁にクナイが一本刺さっていた。

二投目が来る気配はない。
サキは念には念を入れて、カーテンを閉めてから投げ込まれたものを確認した。

紙の巻かれたクナイが一本。
恐る恐る紙を開き、内容を確認する。

"西の森に来い。来なければお前の秘密を公開する。"


それは最悪のモーニングコールだった。しかも昨日の今日ーー

サキは犯人をカカシと決めつけ、家を飛び出した。

(あの白髪ほうき頭!絶対に殴ってやる!)




=木ノ葉の里 西の森=

森の中に入ると、静かなその場所でリンと清らかな鈴の音が聞こえた気がした。サキは直感的にその音の鳴る方へ走った。

森を抜けて、その先は確か用水路のある道のはず。

(何だろう、嫌な気配がする)

気配のある方向に耳を澄ますと大量の水が跳ね落ちた音がした。あまりの音に耳がジンとする。
息をひそめながらその場に近づいていくと、用水路にはカカシ、アスマ、紅と、赤雲の描かれた黒装束を着た人間が二人、交戦中のようだった。

(何やってるの……)


すっかり手紙の犯人扱いをしていたが、見覚えのない怪しげな二人、それに交戦する木ノ葉の上忍を前に、本当の手紙の差出人は黒装束の人間だと気づいた。


(嵌められた……逃げなきゃ)


幸い戦闘中で誰もこちらに気づいていない。下忍の自分が戦いに混ざっても足手纏いになるだけなのは目に見えている。サキがゆっくりと背後に後退していくと、壁とぶつかった。

「!?」

振り返ると、壁と思ったそれは青白い肌をした大柄の男、用水路にいるはずの黒装束の一人だった。
鮫のような顔で、鋭利なギザ歯を笑ってみせた。

(嘘。まさか元々分身を置いて、待ち伏せていたの)

サキが反応するより早く、鮫のような男、鬼鮫の蹴りが懐に入り、皆のいる用水路の方へ吹き飛ばされた。
その勢いでまた盛大に水が飛び上がる。

「な、、サキ!?」

呼び出されたことを知らないカカシ達は当然サキの出現に驚きを隠せない。カカシは特に。

「相手は写輪眼だ。目を合わせるな」
「写輪眼、」

数年前、うちは一族はサスケ以外全員殺されたはずだ。カカシは何故か一族ではないのにその眼を持っていたけれど。

「誰なの」
「うちはイタチ、同胞殺しの抜け忍だ」
「同胞殺し……」

「鬼鮫、早く回収しろ」
「そう急かさなくても分かっていますよ」

敵の狙いは明らかにサキだった。
アスマと紅が鬼鮫の攻撃のフォローに入り、カカシはサキを逃すために近づいた。すると、サキは背後に手をついて慄いた。すっかり腰が抜けており、互いに驚いた顔で見つめ合ってしまう。

カカシは自らの写輪眼を隠していなかったのだ。サキは明らかにカカシの左眼を凝視して震えていて、サスケの写輪眼を見た時よりも反応が悪化していた。
戦場でそんな格好したらダメでしょうと思うものの、こんな風にしたのは昨日の自分の行動のせいだった。

すぐに額当てを下ろし、カカシはサキを離れた位置に移動させた。

「動けるようになったら逃げるんだ」

一言忠告をしてカカシはサキに背を向けた。すぐ近くにうちはイタチが来ていた。
戦闘に戻っていくカカシを気配で感じながら、サキはようやく呼吸ができた。

(最悪だ。敵を前に味方の眼に怯えて動けなくなるなんて)


***


写輪眼に対抗できるのは写輪眼のみ。

だがイタチは通常の写輪眼のさらに先、万華鏡写輪眼を解放しており、その左眼の固有瞳術・月読でカカシを幻術にかけた。
空間・時間・質量すらも術者がコントロールする幻術世界に目を合わせた者を引きずり込むイタチだけの術。カカシはそこで十字架に磔にされ、72時間に渡り刀で刺され続けるという拷問を体感した。

現実の時間では数秒ほどしか経っていない。
カカシが膝をつくと、イタチは未だ動けずにいたサキの方へやってきた。

「邪魔が入ったが一つは回収できそうだな。立て」
「カ、カシさんは、、」
「カカシさんはしばらく動けない。お前は連れて行く」

サキはイタチに無理やり腕を掴まれその場に立たされた。こんな状況にも関わらず、意地でも下を向き、何の反撃もせず、ただじっとしていた。相手が写輪眼であることを抜きにしても、威圧感で足に力が入らなかった。

三代目もユサもヒラも、カカシも自分の能力を狙われる力だと言っていた。でもそれをどこか現実のものとして捉えられていなかった。だから今、どうしたらいいのか分からなくて、たまらなく怖い。
震えて自力で立っていられないサキに対し、イタチはその首筋に手刀を入れた。

サキの体はされるがまま、イタチの懐に飛び込んだ。




=火の国 ???=

鈍い痛みにより次第に意識が覚醒していった。目を開けると地面が遠かった。
何か硬い棒に腹を預け、くの字になって運ばれており、その振動で手足がぷらぷらと揺れた。

視線をずらすと赤雲の黒装束が二人。
サキを運んでいるのは鬼鮫の方で、鮫肌という大刀にサキを乗せていた。

(攫われたのか。ここ何処だ。逃げる方法を考えないと)

サキがじっとしていると、覚醒した時に感じた鈍い痛みが再度やってきた。

(痛い、金おろしとか、細かい大量の刃がゆっくり動いてるような)

痛みから逃げるように腹部に力を込めると、動きが伝わったのか、鬼鮫はサキが目を覚ましたことに気づき、鮫肌を持つ手を動かした。

「目が覚めましたね」
「イ゛っ!!!」

一層の痛みで声を上げた。

「今あなたのチャクラを削っています。試運転するように言われていたのでね」
「チャクラを、、削る?試運転?」

鬼鮫はサキの体重ももろともせず、鮫肌を自身の正面に器用に回した。

「そろそろ里を出て数時間経ちますが、結構元のチャクラ量多いんですね」
「チャクラを、、待ッ…い゛ったッ!!」

ジクジクと腹部が痛み続ける。決して重傷という傷ではないし、耐えられないほどの激痛というほどでもない。
だがそれよりももっと大きな問題がある。

以前これと同じような状況になった。中忍試験第三次予選ーー
残りのチャクラはかなり少ない。
自分のチャクラが空になって、裏チャクラが暴発したあの日を思い出し、冷や汗がどっと流れた。

「、、離して!!」

サキが叫んだ瞬間、気の昂りとともにガクンと大量のチャクラが削られた。
そして周囲の木々が揺れ、風が荒れ狂う。

鮫肌で削り切れないほどの裏チャクラが予選の時のように、サキの周囲に渦を巻いて空間を歪ます。


「すごいエネルギーですね。チッ」

沸騰した湯水のようにサキの体から蒸気が上がっている。高密度、高温のエネルギーに耐えられず鬼鮫は乱暴にサキを地面に下ろした。

まだ自我の残っているサキは何とかして場を離れようと立ち上がった。
敵に背を向けてはならない――戦いの大原則を無視し、サキは場を離れることだけを考え、走り出した。


(熱い、、体が引き裂かれそう)


(なんでこんな目に。試運転ってなんだ!人を道具みたいに言って!)







サキが走り去った後、イタチはサキのいた場所の地面、周囲の草木に触れた。チャクラの痕跡、違和感は人間のそれではない。"本物"であることを確信し、装束の正面を整えた。

「追うぞ」
「はいはい」



***


「ハァハァハァ、、熱い」

燃えるような痛みでとうとうサキは地面に這いつくばった。溢れ出るチャクラに対し身体がなんとか原型を留めているように感じる。それくらい内側からの圧が凄まじい。

ガサガサと草木を掻き分ける音がして、サキは首を回し後ろを確認した。イタチと鬼鮫が追いついてきた。
しかしサキはそれ以上逃げる体力がない。

「凄いチャクラですね。流石は"心臓"といったところでしょうか。どうします?イタチさん。チャクラに耐えられず死にそうですが」
「オレがやる。お前は手を出すな」


イタチの目はまだ写輪眼になっていない。けれどサキはその漆黒の瞳から目が離せなかった。

「ひっ、来ないで!」

サキはひっくり返って、後ろ手をつき臀部を引きずって後退る。今にも失いそうな意識の中で、イタチの目にだけ集中していた。段々と赤みがかるイタチの目、それと同じくサキの頭の奥で呼び起こされる面影があった。


『目を開けろ。逸らすな。俺を見ろ』


『お前は俺に従っていればいい』


長い黒髪に真っ赤な写輪眼。それはうちはの人間に多く見られる容姿だがサスケでもイタチでもない。

涙がたっぷりと瞳に溜まり、視界がぼやけ、ゆっくりと世界が回る。
現実と面影が混じり、記憶にない――本来サキが知るはずない人間の名前を小さく呟いた。


「マ、ダラ」


その声は鬼鮫には聞こえていない。
イタチは驚いてサキの目前に屈み、怯える顔を掴んで固定した。指に熱い涙が伝う。

「マダラを覚えているのか」
「や、」

より近くなったイタチの目を隠すために、サキはイタチの顔を手で隠した。相変わらずボロボロと涙が流れ、呼吸が乱れている。

サキから放出される裏チャクラにイタチは顔を歪めた。強すぎるチャクラは周囲を傷つける。バチバチと火花が爆ぜるようにしてイタチ自身が傷ついていった。

「話にならないか。おい、手を退けろ。とにかくチャクラを止めないと死ぬぞ」
「...ッ、ハッ、ハッ、、、」
「写輪眼は解いた。手を退けろ」
「いや、、来ないで……」

何度言っても、サキは決して手を退けない。
恐らくイタチとマダラを混同しているのだ。
イタチは目を細め、サキを掴んでいる手を一度離した。


「ゆっくり、気を落ち着かせろ。そのチャクラはお前の内側から出てきている」
「はっ、、ハッ」
「内側で渦を巻いている筈だ。それを少しずつ緩めろ」
「っ、、」
「呼吸をしろ。ゆっくり、、お前の力だ。必ず扱える」

眼前の男の声に従って呼吸をする。

(もう何でも良い。この痛みから解放してくれるなら)

「スッ、、ハー……スー、ハー」
「渦の中央がそのチャクラの発生源のはずだ。蓋をするイメージ、か。出来そうか」

目を瞑って深呼吸を続けると、次第に裏チャクラが収まっていく。蒸気が消え、熱が引いてーー
そして周囲を荒れ狂っていた風も凪いでいった。

十数分後完全に裏チャクラが収まった。
サキの体力はもう限界で、落ちていく意識の中でもう木ノ葉の里に戻れないことをひしひしと感じていた。

そして最後にナルトのことを思い出していた。

(喧嘩別れなんて、やだな。もう一度会いたい。仲直りしたいよ、ナルト)



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