秘密、ね [ 6/7 ]
私が徳川に近付いた頃には。
「帰りたいのか」
氷点下の徳川の声がした。あー、一歩遅かった。
まあ当たり前の事だが、もしゃもしゃくんはその場で固まってしまった。徳川は手を振り払って歩きだす。
もしゃもしゃくんに近付こうと歩を早めたとき。すれ違いざまに徳川は言った。
「おい、みょうじ。後で覚えておけよ」
あー………私の今日の試合の相手はこいつか。
「おーい、もしゃもしゃくん。大丈夫か、生きてるかー。」
じーっと顔を覗き込んで、手をひらひらとしてみる。
「え、…っあ!大丈夫っス!」
はっと我に返ってもしゃもしゃくんはぶるるっと首を振る。そのまま私の顔を見て、あれ、と言うような顔をした。
何か言いたげな顔をしていたんだけど、私はそっとそれを遮って言った。
「徳川、今日いつも以上に機嫌悪くて。普段もっとボケっとしてる奴だから、許してやってよ」
小声で、「秘密だよ。」と付け加えて。