あの後、看護師さんたちの冷たい目を避けながら家へ帰る羽目になった。あいつ、何処にいても魔性のおん、いや、男だな…魔性の男、なんて言うんだろうか?

よくわからないようなことを考えつつも、今日のあいつはなんだかいつもより、話しやすかったな、なんて。前みたいに上からなわけでもなく、純粋に同級生として話せる感じ。

…とりあえずは、前みたいに落ち込んでることはないみたい。それになにより安心した。

病院から学校を通り過ぎて、電車に乗り込み。ドアの近くに凭れて本を読もうとした時。

「あ」

ちょうど横の座席から驚いたような声が漏れた。ちらりと見ると、PSPを握りしめた、…確か、切原くん。ふわふわのくせ毛がほわん、と暖房の風に揺れる。

「あれ、帰り遅くないっスか?」

ゲームを一時中断して、私を隣に座らせるために自分のラケバを足の間に移動させた。彼は部活帰りらしく、頬についた絆創膏がなんだか彼らしかった。

「幸村のお見舞い行ってたんだ」

ご厚意に甘えて隣の席に座り、一時中断されたゲーム画面を眺める。ぶちょーのお見舞いスか!いいなあ、俺も行きたかった!、切原くんは心底残念そうにそう言って、元気だったか、とか。相変わらずだったか、とか。

「そんなに気になるなら、お見舞いに行けばいいのに」

あまりにも彼が質問攻めするもんだから言ってみると、しゅんと眉を下げて彼は言った。

「出来たらしてますよ!だって、柳先輩鬼畜すぎて時間ないんス…」

そうだ、彼は確か今“デビル化”の抑制をしてるんだっけ。柳はきっと有無を言わさず練習させてるんだろうな。

「そういえば、手術の日決まったの聞いた?」

「ああ、聞いたっス」

12月の下旬。それは遠すぎず近すぎない距離で、なんだかまだ実感が湧かなかった。
あいつはあいつで毎日不安だろうし、私とかテニス部のみんなだっておんなじくらい不安なはずだ。

赤也くんは、やっぱり手術の日は部活を休みにして、お見舞いに行きたいっス、と言った。彼の目は凄く悲しそうな色をしてて、なんだか私の心まで暗くなってしまった。




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