「すみません、410号室の幸村君のお見舞いなんですが」

柄にもなくケーキなんか買ってみたりして、受付の看護師さんに声をかける。

「…どうぞ。」

何故か少し不機嫌そうに、来客用の札を渡される。『幸村』の名前に反応して、周りの看護師さんも私をチラっと伺うように詮索する目を向けた。

…はーん。何となく分かってきたけど。もの凄く行きたくなくなってきてしまった。

コンコン。半ばやけ気味に病室のドアを叩いた。どうぞ、と聞き覚えのあるアルトの声。

「よっ」

幸村は目を見開き、一瞬固まった。

「び、っくりした……!来るなら言いなよ、」

「仕方ないじゃん、今さっき思いついたんだもん」

適当に丸イスを引っ張りだし、ベッドの横に座る。ケーキ、買ってきたって言ったら「ブン太みたいだ」って。
確かに丸井くんみたいだな。

「今日はなんか調子でなくて。だからこんなことしてるのかもしれない」

「こんなこと?」

「幸村のお見舞い、とか」

幸村は頬張ったケーキを口に詰めたまま、にやっと笑う。
つられて笑ってしまい、久しぶりに声をあげて笑った。

幸村、ちゃんと笑えるようになったんだ。




[prevnext]
top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -