ついこの間始まった夏休みはもう終盤にさしかかっている。八月も末なのに太陽は容赦ない。 幸村くんも容赦ない。突然呼び出されてまさかの東京まで出てこいって、そりゃないでしょ……! という訳で私はベンチに座って試合を観戦していた。私が到着したのは最終のシングルス1が始まる直前。幸村くんの試合に間にあっただけでもまだマシだよな、まだ。 幸村くんの相手の子はまだ一年らしい。一年生で大役を任されてるんだ、凄いな。 幸村くんは相手の打つ変な玉を次々と打ち返す。どうやら幸村くんが圧倒的に勝っているみたいだ。 その内、相手のおちびちゃんの動きが変になった。きょろきょろと辺りを見回し、目の焦点が合っていない。 「柳くん、相手の子、なんかやばくない……?」 あれ、見えてないんじゃ。 「どうも視覚を奪われた模様だな…」 「視覚を?えっ、」 柳くんはさらり、と言い放った。 「精市のテニスは、正確なリターンだけじゃない。精心的なダメージ、通称イップスは相手の五感を奪うものだ」 五感を、奪う……? [prev|next] top |