「何言うとん、アホちゃうか。んならその山本ン所、行けばええやろ。」
ああ、まただ。ユウジはもの凄く怒った顔をしている。バンダナを外して前髪をわしゃわしゃと崩す仕草にドキっとした。こんなときに不謹慎だな。私。
事の発端はほんの数分前に遡る。私がぽろりと言ってしまった男子の名前に彼は随分ご立腹だ。新しいクラスで会った山本くんはとても優しくて、ついその話をしてしまったのである。
私はしばしばこんな事をしてユウジを怒らせている。毎回些細な事だけれど、ユウジが癪に触る事ばかり言ってしまう。……ほんと、最低な彼女だ。
好きで好きで仕方無くて、やっと想いが通じて一緒にいるって言うのに、どうもユウジの前だと緊張して要らないことばっかり言ってしまう。我ながら情けないと思った。
「……なぁ、お前はほんまに俺の事好きなん?」
あぁ、またこれだ。凄く寂しそうな顔をしてユウジは小さく呟く。好き、好きだよ、大好きなのに。どうしてこんなにも簡単な事なのに伝わらないんだろう。
「…ゆ、うじ、……」
どうする事も出来ない想いについ涙が出てしまう。俯いたままユウジの服の袖を握り、そっと手を重ねた。ユウジは黙ってやわやわと私の手を握る。
喧嘩してはこうしてお互い無言で手を握って、話もしない。でもそのうちなんだかどうでも良くなってきて、どちらからともなくごめんね、と言葉を漏らした。
毎回こうだ。喧嘩しては謝って、しかもなんだかんだそのあとくっついて。周りからみたら喧嘩しすぎだとか仲直りの仕方が微妙だとか色々言われるけど。
これが私達、だよね。