ながかったあ。
隣の席に座っていた忍足くんはそう言った。今日は卒業式で、いつもより一時間登校時間が遅かった。
私は暇になってしまって、忍足くんは待てなくなって学校に来たところ鉢合わせたのだ。
「何が長かったの?」
私は携帯を触る手を止めてちらりと彼をみた。差し込む太陽の光にきらきらと髪の毛が光り、おもわず見とれてしまう。
「三年は今までで一番長く感じたわ」
忍足くんはくるくるとペンを回しながら呟く。そうだったな、私も今年が一番長かった。なんだかんだ言って一番楽しかったかもしれない。
「確かに長かったね」
ぽつり、そう呟くとそうやんな、と帰ってくる。彼にしてはなんだかスローな返答だった。確かテニス部は全国まで行ったし、中身の濃い一年だったんだろう。
「なんや、卒業って感じせえへんな」
いつも通りの制服に髪型に教室に。違うのは二人だけってことで、確かに卒業だなんて感じはしない。
「明日も普通に学校来ちゃいそうだよね」
「ほんまやわ。気ぃ付けなあかんな」
しばらくぼけっと会話を続けて居ると忍足くんはとても悲しそうに呟いた。
「なんや、みょうじともっと話しておけばよかったわ」
私と彼は同じ二組とはいえ多少話す程度で、その上彼は人気者だったから遠目で見ている事が多かった。
でも、今日話すと凄い気さくな人だし話しやすくて、……確かにもっと話しておけばよかった。
「そうだね…」
忍足くんは突然弾かれたように立ち上がり、私の目の前まで来てこう言った。
「高等部になっても喋りに行くわ!」
いきなりすぎた上に脈絡が見つからない。
「えっ、」
戸惑った様な声を出すと忍足くんはニカっと笑った。
「だから、これからもよろしゅーな!」
ああそうか、これからだって、卒業したって会えるんだ。
「うん、こちらこそ…!」
私の青春の一ページが、此処で終わって。
また、始まった。