キャンバスに映るもの


*神の子がラケットを握らず絵筆を握っています

「幸村さん」

ひっそりと後ろから声をかける。今、部長は青い絵の具で何かを描いていた。

「みょうじちゃんか」

べしゃ。そんな効果音と共に幸村さんはピンクを勢いよく青の中にぶちまけた。随分抽象的だ。

彼は光の印象派、ルノワールが好きなのにも関わらずいつもそんな絵は描かない。どちらかと言うとピカソのような感じだ。

「今日は青なんですね」

隣に腰を降ろして、自分のキャンバスを広げた。

「うん、青をぶちまけたくって」

幸村さんはキャンバスには自分のこころが映るんだよ、と言った。青から連想されるものはあまり前向きじゃない気がする。散らされたピンクは希望の光のように見えた。

「海ですか」

そう言うと幸村さんはうん、と答えて片づけ始めた。どうやらこれで完成らしい。

「これはね」

するり、まだ乾いていないキャンバスに指を滑らせて、幸村さんは考え深げに言った。

「俺自身なんだよ。暗闇の中に、希望を見つけたから」

幸村さんは微笑んだ。

私がその真意を知るのは数日後であった。





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