だけど…


遠くで、下校チャイムが響いた。

初夏。私は一枚のCDを握りしめて正門近くの自転車置き場の陰で不二くんを待っていた。

彼は、もうすぐこの青春学園から居なくなる。……まだ、信じられない。

「みょうじ!ごめん!今先生に挨拶してきた!」

不二くんは息を切らし隣の陰に滑り込んできた。

「…これ。返すの遅くなってごめんね」

私たちが話すきっかけとなった、とあるアイドルのCDを返す。

「……おう、サンキュ」

不二くんと私の間に沈黙が流れる。私たちはなんだかんだ半年間、よく話したと思う。

共通の趣味から性格まで、なんとなく馬があったのだ。

……いつのまにか私は不二くんを好きになっていた。

おもむろに不二くんは口を開いた。

「……俺が転校するとこ、聖ルドルフって言うんだけどな、」

「……うん、」

「バスで一本、だからよ」

「……う、ん」

「だからその、んー…遊びに、来いよ」

不二くんは遠慮がちに私に言う。

「……わかった。テニス、頑張れ」

「……おう。じゃな、」

不二くんは正門を出て、振り返らず歩いていく。今ならいえる、まだ間に合う。

あなたが好きでした、声には出せなかった。





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