第六章 奪還、そして

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「……っ……」

井宿が去った部屋で、雪は声を殺して泣いていた。冷たい板張りに膝を折り、辺りに落ちていく大きな雫を見ている。

決めた願いを口に出すことで、ひとつ気付いた事があったのだ。

……本当は帰りたくない。帰らないで、彼の事をもっと知りたい。この世界をもっと見てみたい。

でも、井宿はどうだ?そんな自分勝手な気持ちを、迷惑だと思われはしないだろうか?今はまだとても、尋ねる勇気がないのだ。

とにかくそんな思いを引きずったままで、どんなに足掻いても届かない世界へ帰れるはずがない。

ならばいっそ、全てを忘れてしまおう。それが、この結論に至った経緯だった。

自分の中で日々大きくなっていく仲間達の存在を無かった事にしてしまうのは、相当辛いことだった。忘れてしまえば関係ないだろうけれど、ふとした瞬間に心にぽっかり穴が空いたような気持ちが起きて、何故だと苦しむくらいの代償はあるかもしれない。

「井宿……」

今も心臓が締め付けられるように痛い。大きな声をあげて子供のように泣いたなら、彼はまた、どうしたのだと駆けつけて来てくれるだろうか。

「駄目だ。……我慢しなきゃ。そんなの狡いよね」

日を追うごとに、井宿という人物に惹かれている。確実に。

この感情に、何か名前をつけるなら……。






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