第六章 奪還、そして

威勢よく振りかざした鉄扇は、最悪な事にただのハリセンと化していた。空を切る音さえも情けなく、翼宿は目を真ん丸にして鉄扇を凝視するしか出来ない。

「いーっ……!?」

「お前は翼宿か。悪いが、ここでお前たちの能力は使えん。諦めてもらおう」

ああ、青龍七星士とぶつかってしまった……それも、一番厄介な奴だった。と井宿は歯噛みする。兵士だけ、或いは他の七星士なら、上手く逃げる事が出来たかもしれないのに。

素手でもある程度戦える翼宿と鬼宿はまだしも、井宿は力を封じられたら役に立てない。

「また結界なのだ……。雪ちゃん、離れないで下がって」

三人で雪を庇い、じりじりとにらみ合いが続く。こちらに勝ち目がない。

「今すぐ始末……と言いたいところだがな。青龍の巫女が、お前達を殺さぬようにと申されるのだ。どうだ、見逃す代わりに朱雀の巫女を置いていくのは?我々が無事に青龍を呼び出すまで、地下牢にでも繋いでおいてやろう」

「はぁ……?何寝ぼけた事言ってんだよ!」

井宿は黙ったまま息を飲み、どうにか隙を掴めないかと辺りを探っていた。

「無駄な抵抗だな」

全て見透かしたような瞳は、それを嘲笑う。さすがにむっとするというか、馬鹿にされていい気はしない。

「無駄かどうか、そんなことは……やってみなければ分からないのだ……!」

来た時は、容易く破れる結界の緩みがあったのだ。

それが作戦だったのか、たまたまだったのかは分からない。

こうなったら一か八かで探ってみるのは、決して無駄ではない。

「頼んだのだ……!」

ばっと掲げた手が、胸元から取り出した猫を空に放った。

「何!?」

さすがの心宿も、隠れていた猫までは想定外だったらしい。虚空に浮かんだ猫が慌ててもがくのを見ながら、印を結んだ手に力を入れる。

「今……なのだ!」

手応えありと声を張り上げ、強い向かい風に目を伏せながらも、井宿は咄嗟に雪の手を掴んだ。






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