ようこそ、紅南国へ

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「とうとう来おったな」

一点の曇りもない大きな鏡の前で、小柄な老婆が楽しげに目を細めた。手をかざすと鏡の中の映像が消え、満足げな表情だけが反射で映し出されている。

「既に三人か、運とはいえなかなかやりおるわ」

そう呟いて鏡から離れると、今度は遠くまで聞こえそうな大声をあげる。

「井宿!」

「だあっ、そんな大声を出さなくてもすぐそこにいましたのだ……!」

両方の耳に人差し指を突っ込みながら、井宿と呼ばれた男は答える。老婆からすれば、それは随分と大袈裟な仕草であった。

「知っておったわ」

「とんだいやがらせなのだ……」

「そんな事はどうでもよい。お主なら、もう気が付いておるな?」

ぴくりと眉を動かして、彼はすぐに老婆の言わんとすることを理解したらしい。

「朱雀の巫女の事ですのだ?」

国の命運を握る、伝説の少女が異世界より現れた。それがつまりどういう事か。――井宿は、それに関しての理解が深い。真剣な眼差しで、返事を待っている。

「そうじゃ。もう巫女は三人の七星士と共に宮殿におるぞ」

「いよいよですか。では遅くとも二、三日中には」

「うむ、そうするのじゃ。なるだけ早くな」

「太一君」

向けたばかり背中に声を投げられたので振り向くと、井宿は更に続けた。

「その朱雀の巫女とやらは、どのような娘なのですか?」

さして他人に興味を抱かない人間でも、これから深く関わっていく運命の巫女となれば、知りたくなるのは当然のこと。だが、なんとなく気のない返事で済ませることにした。

「さあ、それは自分の目で確かめるんじゃな」

「…………。まあ、教えてくれるとは初めから思っていなかったのだ」

「なにか言ったか」

「いいえ。では、失礼しますのだ」

今度は彼から、太一君に背を向けた。相変わらず飄々とした奴だ、と太一君は鼻を鳴らした後で、再び鏡へと手をかざした。






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