第九章 青龍の巫女

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「だぁーっ!もう、全っ然駄目なのだ!」

木の上で小一時間気を集中し続けて、井宿は少し苛立った様に声をあげた。全く結界の隙をつかめないのだ。

来た時は間違いなく、複数の緩みがあったというのに。――そうして焦る井宿の耳に、砂利を踏むような音が届いた。

咄嗟に身を屈めるが、こんなものは気休めだ。

「貴様、井宿とか言ったな」

ぞっとするように冷たく重いあの声と、独特な気配を感じる。間違いない、心宿に見つかってしまった。

……さあ、どうしようか。

「気を消したとて無駄だ。お前が居たのはずっと分かっていたぞ。……しかし再びあの結界を破ってくるとは、さすが術者だな」

「……まずったのだ」

井宿は一か八か、印を結ぶ。往生際が悪いとは思っても、ただ黙ってやられるのは癪だった。

「無駄だと言ったろう」

ふっと体が浮いた次の瞬間、全く構えていない体が固い地面へまともに落ちる。

「……つっ!」

どうにか抵抗して胴体ではなく足を付いたものの、明らかに捻ってしまった。うずくまった状態から立ち上がることさえ、ままならなかった。

術もさっぱり使えないし、これではもう普通の人間以下である。……何の力も持たない手負いの人間なんて、心宿なら容易く消してしまえるだろう。

「これまでか……」

破れるような隙があったのも――やはり、半ばおびき寄せられたのだと確信した。

すぐ近くで、笑みを浮かべながら自分を見下ろす心宿を見たところまでだっただろうか。何が起きたか分からないが、井宿の意識はぷっつりと途切れてしまった。


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