01 / Lose was re enknow [呼ぶ声]

ヒルディエントの軍馬が戦慄く。蹄が荒れた大地を踏みしだく。鎧が擦れ、金属音が動く度に鳴る。ヒルディエントは堅牢な門の前にただ一人、馬から降り立つ。

「Rats goua![ラッツ ゴウア!:門を開け!]」

猛々しい声が、城内に響き渡る。
オークが鉄の斧を床に打ち付け、敵に吼え騒ぐ。

「Egozio lo ragner!」

「……愚かな人間が一人、か」

顔面の半分をケロイドに覆われ、体に裂傷を刻んだオークは呵呵と嗤う。炎が張り巡らされた管から吹き出し、止まっていた炉が再び動き出す。
鉄が溶解し、要路を通じて流れる。

「Meow rs dev.」

滑車が回る。醜きトロルに鞭が打たれ、城壁を下げる鎖を巻きとっていく。
オークはドラを鳴らす。ヒルディエントの茶の瞳が高慢な王を見据える。
ゴブリンがヒルディエントの腕を掴むが、振り払う。

「触るな下衆が……!」

"解を求めしルオネ"の刃が閃く。血潮が風吹き、ゴブリンの体が倒れた。オークの声は静まり帰り、あるオークが敵を意味する「eng_rod」の一声を発した。すると呆然と立ち尽くすオークはたちまちのうちに声を上げ、戦士の如く斧を掲げる。

「Azou rubeger!」
「Azou rubeger!」

鉄を何度も打ち付け、戦いを求むたたましい音が、オークたちの闘争心を掻き立てる。斧の刃が擦れ、火花を放つ。

「Im gussarma ru_awro!(イム ガッサ-ナ リュ、アウロ:こいつを血祭りに上げろ!)」
「Enduoi!」
「Enduoi!」

「……俺と殺るのか?」

小さな問いは喧騒に掻き消える。闘争心が最高潮に達したところで、理性の枷が外れた。本能が武器を握らせ、本能が争いを始める。ヒルディエントは誘いを受け、切り伏せる。

「こっ……俺の兄じゃを!!」
「正当防衛だ」

相手の呼吸を読み、敢えて攻撃を誘い入れる。何故か攻撃が全く当たらない、そのような錯覚に陥らせ、攻撃は益々単調化。ヒルディエントは腰を屈め、オークの腕を切り落とした。
このオークの頭を踏み台にし、群衆から少し間をあける。

背後にはトロルの驚異。しかし全く意にも止めず、拳に剣を突き立て、ルオネを軸に反動で手を切り裂く。朱が飛び散る。トロルは痛みに悶え、敵味方構わず群衆の中に突っ込む。足取りはおぼつかず、逃げ遅れたオークを踏みしだく。痛みが視覚による認知を鈍らせ、要路へ足を突っ込む。

すかさず頭まで飛び乗り、ルオネの刀身を一直線上に突き立てる。トロルの巨体は数歩前へ歩み、炉へ倒れた。その直前でヒルディエントは別の炉を支える鎖を掴み、体を捻らせ、支柱に立つ。
一方のトロルは体は燃えず、寧ろ無残に溶け落ちた。流石のオークも恐怖に声を竦め、闘気も一瞬にして失せ去った。

「弱いな」
「Gu_owra!」

長たるオークが玉座から立ち上がる。

「たかが人間一人に臆する愚図どもめが!!」
「……醜い豚は負け犬の如く吼えるか。豚は犬にはなれんぞ」

ヒルディエントは嘲笑するが、高慢な王は表情を変えない。つまらんと呟き、玉座へ鎖を伝って歩む。

「……何をしに来た?」
「簡単な話だ。合法的な手段で、国を盗りにきた」

「一騎打ちをしようぞ」

ルオネの切っ先が王に向けられる。

「私が勝てば此処を頂く。貴様が勝てば私が手にした全トル・ストーレン…即ちイシュガルを全てくれてやる」

オークの王アドグは勝った、そう確信した。口端を吊り上げ笑った。





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