01 / Couver rs Mol-gouce shardain.[死の砂漠]
「お前らがいるとロクなことがない!」
レイメは嘆き、その哀しみを砂漠の蠍"エスガリオン"に叩きつける。硬い装甲を有するエスガリオンだが、身体の内側は弱い。はずだった。
レイメの愛刀大典太を容易く弾き、蠍の毒針が砂に突き刺さる。それは砂波を呼び寄せ、津波のように押し寄せる。
エマが杖で砂を軽く叩く。レイメの体は蠍の背後に転移し、自然落下を利用して、大典太の切っ先を垂直に突き立て、装甲の隙間に刀身がどっぷり浸かる。
エスガリオンは甲高く啼き叫ぶ。足を、地を抉るようにして突き立て暴れる。何度も何度も刺すものだから、辺りは砂塵に隠れ、エスガリオンの鳴き声それしか情報が得られない。
「こんなデカ物ばかりで何故食料になる獲物が出てこない!」
レイメの腹が鳴る。「ユリウス殿から貰った食料も尽きたというのに!」その嘆きはエスガリオンに叩きつけられる。
ユリウスは食料を少なめに渡したわけではない。むしろ逆だ。しかし、エマが夜食にと食べてしまった。レイメが寝ている最中に。更にロームングルはそれを止めなかった。否、止めようという意思すらなかった。つまりロームングルはエマを甘やかしたのだ。その結果が、今だ。
本来、このリディウラ砂漠には食料となるデスミラジという巨体を誇る砂漠兎が生息しているはずだった。しかし、遭遇しない。遭遇するのは毒を有し、食用にならないエスガリオンばかりだ。更にエスガリオンは硬い装甲を有するため、倒すには手間と時間が要するのだ。
ロームングルの怨刀グラムスが装甲の隙間の肉を切り裂く。蠍が呻く。怒りと憎しみに、エスガリオンは猛り、鋏を払う。ロームングルの元まで鋏が迫る。しかし飛んだのはロームングルの首ではなく、エスガリオンの鋏だった。
朱が舞踊り、レイメが瞬きし次に目を開いた時、蠍の口腔にグラムスが突き立てられていた。
蠍は虚しく宙を掻き切り、動きを止めた。
「流石僕の家来」
自信満々に胸を張って見せる。倒したのはお前じゃないだろと思うも、それは喉の奥で塞き止められた。
「でもどうやってあのデカブツを……」
倒れる蠍を一瞥する。
エスガリオンの爪の部分は、装甲の内側の皮膚も固く、並大抵の剣では貫けない。いや、ロームングル自身が常識外れなのだが。
だとしてもあれを、一瞬で切り刻んだ。剣士ならば疑問に持たないはずはない。
ロームングルはじっとレイメを見下ろす。こう見ると、ロームングルは頭一つ分以上の大きさがある。
沈黙が続く。レイメがその静寂に我慢しきれなかった時、腹が盛大に鳴った。
「……行くぞ」
身を翻す。エマも楽しそうに後ろに続き、今の音を無かった事にした。
今更込み上げてくる腹痛に、足を前へ出すことを躊躇わせる。
「しまった、腹が………!」
待ってと呻くが、誰も相手にしてくれない。
レイメは空腹から逃れるよう、瞳を閉じた。
パチパチと火の粉が弾ける。埃の匂いが鼻を劈く。ここは何処だと瞳を探らせても十分な情報が手に入らない。
「レーイーメーお小遣いちょーだーい」
「は?ていうか、それが第一声かよ」
痛む頭を押さえ、体を起こす。粗末な小屋、それがレイメが持った感想だった。
「粗末で悪かったな」
「いや、俺はまだそんなこといってないんだけど」
黒に茶色がかった長い髪を持つ男が、水を杯に注ぎ渡す。心なしか水が濁っているが、気にせずに飲む。
「連れが煩い。黙らせろ白髪」
「しらっ……」
「白髪だってーぷぷぷぷぷ」
「うざっ」
死ねばいいと思うが、殺意を顕にするとロームングルが柄に手を掛ける。レイメは溜息をついて気持ちを沈めた。
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