nienya was re melion[新たな希望]-05

"小人"とは思えぬ身体能力を奮い、エマに槍を振り下ろす。その槍は紅に燃える炎刀に受け止められ、小人の体を軽々吹き飛ばす。
しかし彼は猫のように体をしならせ着地する。

「ロームングル、お前も裏切るつもりか」

先ほどの異質の空気を纏う男、ロームングルが興味ないように受け流す。彼の竜が小さく唸り、羽ばたく。

「逃がさない……!」
「フィンディルに悪い、と伝えろ」

銀色の光と赤の闇を放つ首飾りを投げ付ける。竜の鎌首が地をなぞる。その時にはもうロームングルは竜の背に飛び乗っていた。
セシリアの甲高い声がレイメに伸ばされる。しかしそれは細く小さなものに過ぎない。それはレイメに届くことは無かった。また、レイメもセシリアに手を伸ばした。セシリアには遠く短く、虚しく宙を切るだけだった。
小人族の彼は忌々しく吐き捨てる。その怒りの矛先を向ける相手はなく、ただ天高く飛翔するその竜を見つめるだけだった。

「まんまと出し抜かれおったな、ポリュペイモス」
「うるさいよ、ヨトゥン」

小人族のポリュペイモスは槍を背に下げる。霜の巨人であるヨトゥンはげらげらと笑い、酒で喉を潤す。

「Oguzore betarnt!!Oguzore betarnt!!ra marga!!(オグゾ-ル ビタ-ント!!オグゾ-ル ビタ-ント!!ラ マ-ガ!!) 」

後ろでは人間の王、ヒルディエントが的確に支持を下し、イアルヴのみならず、オーク、ゴブリン、果てには竜騎士にまで伝える。
飛龍が戦慄き飛翔。馬は蹄を高く振り上げ、再び駆け出す。
そのエデンは埋め火と血に覆われ、黒煙を吐き出している。それは下にいる人々の目にも捉えられた。

世界は悟った。エデンはかの者によって落ちた。それが誰か、世界はよく知っている。その者によって数多の血が流されたのだから。
嗚呼、1万年の歴史で最も長く続いた平和が崩れた。第四世紀が、ついに闇の支配へと変わる。

エデンから、闇の者どものけたたましい咆哮が世界に響き渡った。





「くそっ……ふざけるな!セシリアは…あいつは………!」
「今は耐えるんだレイメ。あの場で彼女を救うことはできなかった。僕にも、ロームングルにも。」

レイメにとっても分かりきったことだった。ロームングルを抜かす四人の力は測りきれない。特に人間の男、ヒルディエントが最も測れない。後ろに追っ手が続く。それを全く気にせず竜は飛ぶ。黒い鱗が剥がれ、それはまるで星の雨のように降り注ぎ、代わりに虹色の鱗が顕となる。
空を泳ぐ鯨が、大きく唸る。

「でも彼女は死なないし、きっと酷い目には合わないから大丈夫」
「そういう問題じゃないだろ!くそっ……」
「……ロームングル、エルフの里に行こう。サナルの都へ」
「御意」

イルヤンカが大きく下降する。木々はざわめき、砂塵が吹きすさぶ。まるで世界は彼らを受け入れまいか、話をしているようだった。

イルはかつて世界を憎しみのあまり滅ぼそうとした。そのイルを受け入れようか、受け入れまいか。
イルの罪は人間にとっては遥か昔だ。しかし、世界にとってはまだ新しい。
エマはロームングルの背に寄りかかり、暫しの眠りに入る。その顔は子供そのものであり、とても世界の大罪人とは思えなかった。

月も傾き、朝日が顔を覗こうとしている。星の川はそれでも流れ続け、空を泳ぐ鯨が飛沫をあげる。

「憎みたければ憎めばいい。殺したいのなら殺せばいい。全てが終わった後にな」

山を超え、砂漠より遥か先へ行く。どこへ行くのか。サナルが何処にあるのか、これからどうなるのか。皆目検討が付かない。
イルヤンカが猛々しく咆哮あげる。その声は世界に響き渡り、人々は決められていた運命の道筋から離れる、最初のきっかけとなった。
そのことを知るものは誰もいない。もしも居たとすれば、史に終わりを齎す者、ただ一人だけだろう。


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