nienya was re melion[新たな希望]-04

「この男を縛り上げて、目の前でその女を凌辱してやってもいい。我らと同じように」

ロンゾが呵呵と嗤う。部下のイアルヴが骨刀で服を裂き、衣服の下の薄肌色の体が顕になる。セシリアがその後の恐怖に戦慄く。レイメは必死に頭を回すも何も浮かばず、今にも辱めを受けようとしているセシリアに対して何の言葉も出なかった。

「どうしようか。綺麗に縦横に切って生皮を剥がそうか、膣を潰したあとで犯すか、それとも少しずつ肉を削いで貴様に食わせるか。なぁ、レイメ」
「……いや…やめて……レイメ助けて…」
「俺は、どうすれば…」
「さぁ、どうする。レイガオンの子よ」

ロンゾの幾重もの傷が刻まれた唇が醜く歪んだ。

一陣の風が巻き起こる。漆黒の竜とジャバウォックが降り立つ。更にの馬に跨る一人の人間の騎士と、竜蟲種(コクルルカ)に跨る魔族が続く。竜蟲種は羽音を止ませ、各関節を動かし歪な鳴き声を上げる。

ジャバウォックから小さく桃色の髪をした、夢で見るあの少女が降り立つ。ロンゾは服従の意志を示し、その場に跪いてみせた。ロンゾは少女をこう呼んだ。『エマ』と。

その驚愕に言葉が喉の奥で詰まる。呻き声すらも詰まり、口をただぱくぱくとさせるだけだった。彼女エマは得意げに鼻を鳴らす。

「君が長年追われ続けたイシュガル軍のトップが僕で驚いたでしょ。僕はエマ。君が持つ鍵の、本来の持ち主さ!」
「鍵……」

レイメは服の中に忍ばせていた鍵を一瞥する。父から受け取った大切な鍵。守らねばならない大切な鍵。その持ち主があの少女とはどういう意味なのか。

「君がイルの魂を持つ者。僕がイルの躯を持つもの。だとしたら、意味はわかるよね?」
「……イルの…!!」
「復活さ」

"イル"
第二世紀最高の魔導士と称えられる英雄にして、第三世紀最大の敵といわれている。
彼女は第二世紀、"ラーヴァナの復活を望む者"との争いを平定したと言われている。それもたった一人で。無論彼女は英雄となるはずだった。しかしイルは何千、何万という魔族の血と憎しみを浴びた結果、体は魔族のそれとなってしまった。故に彼女は栄光の代わりに、救ったはずの人間から憎しみを浴びた。
世界は彼女を殺そうとした。彼女に従う者も然りだ。いつしか彼女は民の前で散々辱められた後で処刑された。爪を剥がした後で指を切られ、手足をもがれ、瞳を抉り、皮を剥ぎ、そして最後火刑に処された。彼女は狂ったように嗤ったという。

彼女の憎しみは深かった。光は闇に、希望は絶望に。約5000年という時を経て訪れた平和がたちまちのうちに崩れ去った。
イルの憎しみは世界に向けられた。誰よりも深いラーヴァナの闇を内に秘めながら。

しかし、世界は彼女に必死に抵抗した。天族の語り部リディリエラ、"蝉"の唄い人ミニュリガが人々に光を与え続けた。トゥエンの子孫とされるカノンがラーヴァナを押し止め、闇の力を抑制した。天族のシェロンがトル・ストーレンよりも奥、アングマエルへ押し込めた。魔族のラウレオンがその門を閉じ、アンドレアが次元を切り離した。"烏"の光明(コウメイ)がイルの最後の躯を屠り、人間のレイメル、シェリクア、ドゥーマらによって魂を封じられた。そう伝えられている。


「そのイルがどうしたっていうんだ!俺とイルは関係ないだろ?!」
「君すっごく鈍いね。それとも認めたくないだけかな。イルの魂を持つ者が君。だから僕らは君を追い続けた。エデンを襲った。理由は十分さ」

エマは杖を強く打ち付ける。衝撃波が走り、気がついたら新たに5人、現れる。うち一人はほかの者とは違う漆黒の竜に跨り、全ての竜が平伏した。漆黒の竜は小さく唸る。
一人は人間の男、一人は霜の巨人族と思しき男、一人は竜の鱗を身に持つ男、一人はカルカル族と呼ばれる小人族、そして漆黒の竜に跨っていた男はほかの四人とは全く違う、異質の空気を纏っていた。
息が詰まり、恐怖がますます込み上げてくる。

「彼らはイルの仲間。一人欠けてるけど」

イルの仲間、という言葉に、自身の仲間ではないことが揶揄される。今のエマの表情はどこか寂しいものだった。

「僕は所詮イルの見た目をした別人。どう頑張っても彼らの仲間には入れない」
「何をいきなり……」
「エマは要らないんだ。イルを復活させる、聞こえはいいけどつまり僕は死ねって言われているのと同義。ねぇ、君ならどう思う?僕を憐れんでくれるかい?レイメルの血を継ぐ者レイメは、僕を、イルを憐れんでくれるかい?」
「言っている意味が」
「エマ」

小人族の少年は槍の切っ先をエマの首筋に当てる。半獣半人のような少年だが、彼の大きな瞳はとても暗く沈んでいた。

「まさか、今更怖気付いたわけじゃないよね?」
「だとしたら、どうする」

禍々しいまでの闇の波濤が放たれる。深淵より出る亡者の手が小人族の少年を縛り上げる。彼にも彼らにも動揺はない。
その最中、跪くロンゾらはただその行く末を静かに見守っている。もしも主が危険にさらされているとあわらば助けるが、生憎小人族の少年には義理がない。命がなければ動くつもりはない。

「Whey Emma?(ウェイ エマ:如何なさるつもりか)」
「Goal mir aceerer "il" reted.(ゴゥラ ミル アッセ-ラ イル リ-テッド:悪いけど僕はイルに戻るつもりはないよ)」

杖を強く叩きつける。一瞬でレイメごと宙に移動する。

「!」
「…僕は僕だ。僕はイルなんかとは関係ない。絶対にイルになんかなるものか」
「ちっ……約束を反故にするつもりか!」




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