nienya was re melion[新たな希望]-03

闇の中に隠れる全ての者の視線が一人の少女に集められる。
彼女の傍らに長身の男が黒い鱗を持つ龍に跨り控える。
彼女の紫水の瞳がエデンに見据えられる。彼女の跨る一際大きなジャバウォックが甲高い金切り声を上げた。まるで光に対する宣戦布告のようだった。それを合図に他のジャバウォックも金切り声を上げた。闇夜に不気味に木霊した。その声は遥か遠くまで届いた。暗黒大陸と呼ばれる未開のエルフの里の主のところにも届いていた。

大地が恐怖に戦慄いた。闇が再び目覚めたと。しかし、幻の楽園に住む者に分かるはずがなかった。"やけに不気味な鳴き声が轟いた"その程度にしか認識されなかった。

少女は杖を掲げる。

「行くぞ!」
「Rubeger!」

イアルヴのけたたましい声が轟いた。

――闇の子らが、産声をあげた



悪夢は続いた。現実なのか夢なのか、どちらかレイメに分からなかった。悪夢に近い現実か、夢なのか。どちらも知りたくないことである。
家々はパチパチ鳴る焔に包まれ、時に崩れるものもある。街は阿鼻叫喚に包まれ、女の甲高い悲鳴が最もよく聞こえた。

「Im gussarma ru_cara!(イム ガッサ-ナ リュ、ケイラ-:人間を血祭りに上げろ!)」

醜い姿を持つイアルヴは無慈悲にも獲物を片手にエデンを蹂躙して行く。目的の者ではないレイメ以外の者は首を撥ねられるか、心の臓を貫かれるかして絶命した。そうでない者は大量出血による死か、ジャバウォックにの刃に掛けられるか、馬に踏みしだかれるかして絶命した。

セシリアが小さく悲鳴を上げる。涙に汚れたその顔を何度も何度も清め、平常心を保とうとするがそれは無理なことだった。レイメが荒くなる息を戒め、何回か深く呼吸を行う。
重い体を引きずって街の外れへと逃げ延びる。それでもやはり、惨劇は惨劇であることには変わりなく、それが視覚を通して見るか聴覚を通して見るかの差に過ぎない。
上空をジャバウォックが旋回し空から地上を見張る。長大な蝙蝠の羽が幾つもの空気をはためかせ、生じた颶風が二人に浴びせられる。

「ねえ、何なのこれは……!奴らは一体…」

取り乱すセシリアに冷静に答える。「あれはイシュガルの……。……俺が連れてきた」エデンに帰ってきたが故にと韻を踏んだ言い方だった。
事実、そうなのだ。浅はか故に起きた惨劇だ。
剣を握る手が震える。セシリアの手を掴む手も汗ばみ、彼女の感じている恐怖が伝わる。

「くそっ……」


『そう、これは夢』

視界が反転し、再び夢の景色が瞳に映る。
そこにいるのはやはり桃色の髪を持つあの少女だ。しかし、今回目の前に居るのはずっと大人びていた。

『僕が与えた希望に縋った人間の夢。世界が望んだ夢の塊』
「あんたは誰だ。お前は一体何者だ、どうしていつも俺の夢に現れる?」

彼女は困ったように笑う。

『質問が多いなぁ。そうだね、僕はイル。彼女はエマ。ただの、夢さ。そして君もね』
「は?どういう──」
『それはこれからじっくりと考えればいい。これから色々な出会いがある。色々なことが起きる。きっと、道は示される。君が光を見失わない限り』

イルは大空を仰ぐ。

『神様が創ったこの世界は広い。とても、とてもね───』

視界は徐々に霞みがかり、次第に現実に引き戻されていった。

「レイメ!」
「……!」
「Seeri rs thier.(シ-リ ルス ジア-:見つけたぞ)
Darioz gone.(ダレイズ ゴ-ン:どうしてくれようか)」
「……レイメ…!」

イアルヴの首魁ロンゾ・アンジールが骨刀をレイメの首筋に当てる。ここはどこだと、何があったと状況把握に努めるものの、幻影を見ていた僅かな間に何があったのか全く把握できない。気がついたらイシュガル軍に囲まれていた。エデンの中央の噴水は無惨に壊され水が溢れ出ている。まさにその目の前に追い詰められていたのだ。




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