nienya was re melion[新たな希望]-02

「あんたバカじゃないの?そんないかにも体調悪いですっていう顔してるのに、直ぐに旅に出れるとでも思ってるの?」
「あー…いやー……」

どうやら全て筒抜けらしい。そんなにも悪そうな顔をしているのか、自分では分かりそうもない。

「でも、行かなきゃ」

そう言ってセシリアの手を振り解き、逃げるようにして駆け足に行くも、思うように体は動いてくれなかった。

「ねぇってば!」

自身を心配するセシリアの静止を簡単に無視してみせる。気持ちは本当のようで、レイメの良心を痛める。しかし、そう言っている場合ではないのだ。あの夢を見たらすぐ、イシュガル軍が追いついて来る。それも一日から二日程度だ。

「ねぇレイメ!」

"―――――――――"

レイメの視界が一瞬、夢に見る白い花畑を映す。幻覚とも思ったが、一瞬過ぎて判断することができない。セシリアの声が少しずつ遠のく。また再び景色が変わる。
その度に倦怠感と頭痛が上乗せされ、更には吐き気すら催して見せる。ついにレイメは自分の体重を支えきれず、その膝を折った。何度も何度も景色が移り変わり、視界が安定しないせいです脳が錯覚を現実と認識し、何かに揺られているような不快な気持ち悪さを覚え始める。

「大丈夫レイメ?だから言ったじゃない」
「だから新たな新天地を……」
「そんな状態じゃ無理よ」
「新たな、新天地を……!」

"―――――――――――"

"帰ろう――"

まるで壊れかけたフィルムが命尽きたかのように、僅かなノイズを視界に映してレイメの体は倒れた。

"母の御許へ――"

桃色の髪の少女は確かにそう言った。






平和こそが戦争であると語った者がいた。英雄こそが真の敵であると語った者がいた。母はその英雄の末路を哀しそうに語ってくれた。英雄は火刑に処された。英雄は焔に抱かれ何を思ったか。さぞかし黒々とした業火を灯したことだろう。人々は平和を齎した英雄に仇という恩を返したのである。

頬に涙が伝う。ただ思い出しただけなのに、何故こんなにも心は重いのか。所詮は歌の中のお伽噺に過ぎないのに。

突然景色が変わる。先程の花畑だった。しかし、夢の中だというのに景色が途切れ途切れにしか再生されない。夢の中のはずなのに、鮮明な吐き気がこみ上げてくる。

花は次第に枯れ、水を豊満に含んだ土は枯渇する。茶色く干からびた花弁が少しの風に吹き散らされ、新たな花の代わりに炎が咲き上がる。地面から肉が少しだけこびり付いた骨が足を掴み、顔の原型を留めない化け物が這い上がる。それらはレイメを引きずり込もうと、果のない闇へ誘う。
彼らの腐敗した肉は死んだことによるものではない、もっと別の原因だ。爛れ潰れた瞳がレイメを捉える。殆ど歯がないその口で化物は嗤った。

「共に還ろう、母の御許へ」



「っ!」

レイメは夢から逃げ出すように目を覚ました。未だ幻を映す瞳が木目しかない粗末な天井をさ迷い、家であることをやっと悟る。そうだ、ここは自分の家だ。
セシリアが乱暴に水の冷気を受け取った手拭いを額に乗せる。レイメの精神は完全に現実のものを認識させられた。

セシリアの顔は完全にバカを見る冷たく残酷な視線を送っている。それをまともに直視することは不可能に近い。

「こんなんじゃ今日中に発つのは無理ね」
「……うん」

一夜程度なら大丈夫だろう、そう思っての返答だった。エデンは空中都市だ。そんなすぐには来れない、本土から飛空動物でも連れてきていなければ一日やそこらで来れる筈がない、そうタカを括っていた。
レイメは布団を深く被り、再び眠りについたのである。




「Aure praise rs weis.(アウリ プライズ ルズ ウェイズ:準備は整った)
Im quout sira caurer.(イム クオウト シェラ カウラ-:いつでも行ける)
Whey?(ウェイ?:どうする?)」
「Ancome.(アンコ-ム:まだだ)
Mol re ancome.(モル リ アンコ-ム:まだ時は満ちていない)」

闇の中に潜むように小さな声で伝える。"イアルヴ"は眉をひそめる。何故かと瞳が問い詰めるも言葉にはしなかった。その答えは過ぎたものであり、主を信じ待つことが末端の者の役目だからである。

竜のような巨体に蝙蝠の羽、鱗はなく軟性の皮と一つの瞳を持つジャバウォックがまだかまだかと急かすように唸る。騎手たちは轡(タズナ)を握り締め、出陣の時を伺う。


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