04 / Lose was re enknow [呼ぶ声]

「死した"南"の命となりて、生きとし生ける数多の子らへ恵みを齎す」

「子を慈しみ、失せし子を憐れみ、捨てられし我らの唯一無二の親となる」

「音失いし我らの炎を、灯失いし我らの水を、再び返り咲かそう」

「天の如き轟が届けられる時、双つの神は光を齎さん」

クトゥグアとクトゥは再び吼える。今度は互いに共鳴するように。
光球が発射される。二つの相対する力の球は衝突し、弾けることなく溶け込み合う。力は膨張し、赤雷が弾ける。赤と青のそれは次第に凝縮し、眩いばかりの白い光を放つ。そして、力は一点にのみ収縮し、弾けた。
光は雨のように降り注ぎ、生きとし生けるものに命を吹き込む。それは暗黒大陸全域に渡り、死に絶えようとしていた命を再び芽吹かせる。更には、レーヴァテインの光をも循環させる。

「所謂ユグドラシルの働きを成しているってとこかな。ていうか、二人とも生きてる?」

首を横に振る。立て続けの轟音が頭をつみさいていた。平衡感覚は狂い、立てそうもない。
ミフルの肉球が当てられる。心配してくれているのだろうが、肉球ばかりが気になってしまう。

「俺よりローエンの方を何とかしてやってく──」
「俺は、大丈夫だ…ッ!」

頭が軋むように痛い。鼓膜の震えが治まらない。視界が回るように動き、焦点が定まらない。内なるものが鼓動する。それが何かは分からない。そういった感覚がローエンを支配していた。

「五月蝿いだけじゃなくて、語りかけてきやがったたせいで余計気持ち悪いし、思い出したくないことまで思い出すし……」
「え?俺はただうるさかっただけだけど……何て言ってた?」

ローエンは腹を抱えてうずくまり、横目でレイメを一瞥する。その後すぐにため息をつき、数秒後、再びつく。レイメはその行動の意味は察するものの、少し腹に来るものがあった。が、それをゆっくりと飲み込み諌める。俺は心が広いと言いながら。

「ローエンの尻に敷かれまくってるね」
「ほんとそれな……。おかしいな、俺はこんな息子に育てた覚えはないのに」
「育てられた覚えもないし、こんなジジィに育てられたくもない」
「なっ…!」

ああ言えばこう言う、いつも通りの切り口だった。エマはふふんと笑う。

「二人は心配なさそうだね。ちょっと安心した」
「ローエンが言ってた語りかけてきたっていうのと関係あるのか?」
「うん。なんて語りかけているのかは分からないけど、何故か悪い方向に働いちゃってねー」

エマは軽く笑い流すが、そんな軽いことではないような気もする。ローエンは再びため息をついた。

「で、ロームングルは大丈夫なのか?」
「あー……」

先程の笑を崩さぬよう務めるが、口元はぎこちなく、目はどんどんローエンから逸らされていく。レイメは言われてようやく気づいたが、ロームングルの姿はそこになく、イルヤの姿もなかった。

「ごめん、ちょっと行ってくる!」

エマはよそよそしくその場から立ち去った。



血が滴り流れる。大河に満つるは人の血。或いは、オークらを含む魔族の血。赤と赤が混ざれば更に濃い赤に染まる。怨念こもりし血が混ざれば、更に怨念は強くなる。光をもたらすはずの大河は赤く濁る。土は血という水を染み渡らせ、群生する植物はそれを飲み干す。一滴、一滴と流れ、今日は3000滴もの血が流される。
流れる血の数は一向に減らない。なのに同胞の数は残り少ない。6人いた仲間は既にいない。

「我らが安寧を手にするためには、全ての禍根たる魔族の血を絶やさねば得ることは出来ぬ!!」

不快な歓声が轟く。その言葉に呼応するかのように拷問に近い処刑が為される。普通なら目をそらしたくなるような、そんな光景だった。
ある者は大樹に磔られ、熱く熱せられた鉄板を内臓が零れるまで押し付けられる。ある者は生きたまま頭部を切断し、脳を顕にされ晒したまま殺される。ある者は耳から溶かした鉄を流し込まれ、痛みに悶え殺される。ある者は皮を剥がれ、焼き殺すか、己の皮を食わされるかさえもされる。
そのような行いを彼らは嗤ってやりのけてみせた。




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