07 / Couver rs Mol-gouce shardain.[死の砂漠]
「何故お前はイルに依存する?何故復讐に依存する?」
「記憶がない君には分からないだろうさ!」
オッタルの切っ先がロームングルの頬を掠めた。はらりと髪が散らされる。その布の先では眉根を潜めていた。
「君はイルが処刑された後、何が起きたのか、世界が僕らに何をしたか!!」
「僕らの仲間を如何にしたか!僕らの国を如何にしたか君は何も知らない、だから君は理解することができない!!」
ハザドの獅子は啼いた。蹄がロームングルの肩口を引き裂いた。エマの傍らに御してしたイルヤの瞳が暗く沈む。腕の中に抱かれるテウメッサの瞳が死を見通す。
「国は死んだ。仲間は死んだ。家族も死んだ。彼ら人間に裏切られて死んだ。気高きハザドの戦士はその誇りを辱められ滅びた!君の国だって!」
グラムスの刀身がその槍を弾き返す。ポリュペイモスの首筋に当てられ、身を流れる業火に刀身は紅く灯された。
「戦場で生きて行く限りは死を覚悟せねばならない。もしもそれで死んだのなら同情の余地はない」
「……記憶がないくせしてそういうところは変わらないから腹が立つ」
ポリュペイモスの口が笑みを浮かべた。
ジャバウォックの紅炎が街を包む。人々は恐怖に戦慄き、慟哭し、全てを投げ出して逃げようとする。そこにゴブリン兵が斬り付け、逃げることは許されなかった。ある者は弄ばれ殺された。
「ポリュペイモスの狙いはこれかい?」
「そうさエマ、君に用はない。鍵さえ手に入ればそれでいい。あーあ、疲れちゃった」
ポリュペイモスは服を軽く払い、槍を拾い上げ、ルッゾ・エ・ゾの腕に抱かれる。「それに焚き付けるには十分でしょ」彼は薄く笑った。そして眠りに入った。ルッゾ・エ・ゾはジャバウォックに跨り飛翔させる。彼らの興味はポリュペイモスから外れ、ジャバウォックを見送った。
「どうするロームングル?街の人達助ける?」
ロームングルは首を横に振る。「財を持ち出すことばかりに執着しているような人間なら助ける必要はない」いずれの人々は大きな袋いっぱいに自らの財産を持ち逃げている。我先にと逃げ、他人を見返る様なことはしない。弱者である子供すら押しのけ逃げ惑っている。エマも同感の意を示した。「自分本位であるのならいっか」紅い瞳が薄く笑う。
「だから、こうなった。ね!」
「レイメのとこに行こっか」
「御意」
戦火が相変わらず火の粉を散らす。ゴブリンの来襲により混戦した状況になり、それどころかアクラガス兵が守らねばならない民衆すらも殺してみせる。
レイメの大典太の切っ先が横走り、兵士の首を仕留める。
「お前らはハルスの民を何故助けず同様に殺す!!」
ゴブリンの心の臟を貫く。男はルシエンの剣を弾き、レイメに背を預ける形で体制を立て直す。
「答えは簡単だ。俺が此処に逃げてきたから、それしかあるまい」
「そんな理由で…」
「それだけで十分だ」
十分なはずがあるか、レイメはそう言いかけたが途中で理性がそれを否した。
「そうだ、お前はそれだけ重い罪を犯した。王の温情を裏切った!」
男にとって呪怨のようにその言葉が吐かれた。再び手が震え始める。
「貴様は恩人である王を殺そうとした!」
「ちが……」
「最早弁明は出来ん。しかし、そこに居る娘と男を殺せば、話は別だが」
エマが笑顔でレイメに手を振る。その背後にはいつものようにロームングルが控え、イルヤがグワッと鳴く。
「レイメ生きてて良かったー!てっきり野垂れ死んだのかなって思っちゃった☆」
「お前な……」
レイメは呆れ果て、その後に続く言葉が思い浮かばなかった。エマの紫水の瞳が男を捉え、首を僅かに傾げる。
「固まっちゃってどうしたの?あっ、もしかして僕が助けに来てくれたのが嬉しすぎて言葉も出ないとか!」
「馬鹿野郎」
レイメに軽く頭を叩かれる。お調子者は基本的には許されるが今回は許される場面ではなかった。
男の手から震えが消える。代わりに、瞳には闇を称えていた。流石のエマも状況を把握した。彼の中で眠いっていたラーヴァナの闇を捉えたのだ。
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