05 / Couver rs Mol-gouce shardain.[死の砂漠]

砂漠を照らす太陽のような燃える尾をもつそれは、慎重に顔を近付け、甘えるように喉の奥で鳴く。すると男は疲れたように顔をあげ、テウメッサの首根っこを掴み、エマに渡す。
エマの顔は嬉しさに晴れ渡るが、テウメッサの顔は曇る。

「持ってろ」
「わあぁぁ……狐さんかっわいー!きゃー!」

イルヤが羨ましいと言わんばかりの視線を向け、ロームングルに甘えるように頬擦りを寄せるが、彼は華麗に無視を決め込む。レイメは呆れたように溜め息をつく。あれが本当にイルなのかと。

「……あのデカブツが庇護していた。多分、そいつを守ろうとしたんだろうな」

母が子を守るのと同じようにと小さく続け、再び顔を埋めた。その背はどこか小さく悲しく思えた。

テウメッサの鼻先が傷口に触れる。仄かな光が灯り、シャボン玉のように優しく弾ける。それは光の雨のように降り注ぎ、傷を癒していく。

テウメッサの瞳には憎しみの色はない。癒しの音を奏でるその神獣の桜の瞳は光を宿している。それに対して男の瞳は暗く、沈んでいた。

「お前は俺を殺す権利を持っている。何故仇を殺さない?助ける必要はない」
『きゅう』

テウメッサの瞳の色が深く青く輝く。その神獣には死を求めている、そのように感じた。しかしその奥では生きねばならないという意思を感じた。それをテウメッサは敏感に感じ取っていた。

男の心の奥底に眠る、ラーヴァナの闇が見えた。

「ねぇ、痛くない?治ってよかったね!」

傷口を強く抑え膝に顔を埋めたまま、顔をあげようとしなかった。反応すら示そうとしなかった。





仄かな明かりが屋敷を照らす。ハレスの領主は高慢な性根とは裏腹に、命乞いをする無様な豚のよう。鎧に身を包む彼に誇りも何もかもを捨て慈悲を乞う。
甲冑に身を包む彼の表情は分からない。恐らく領主に対して野に咲く雑草に向けるような、まるでゴミでも見るような目を向けているのだろう。
領主の顔は涙と鼻水に塗れる。彼は何も言わず、ただただ冷酷に剣を振るった。

鮮血が舞う。彼は剣に付着した錆を払う。

「清めねばならない。闇が蔓延る前に」

「裏切りが起こる前に」

双つ月夜の光を剣が弾き、その切っ先が仄かに輝いた。








烏が戦慄き飛び立つ。夕日は世界を、街を照らすがそこには光が入らない。薄暗く異臭を放つそこはさながら豚小屋のよう。否、そこはずっとずっと遠い地下の世界。如何なる罪人すらも送り届けられない監獄だった。
監獄には年端も行かぬ少年がただ一人、膝を抱え座っている。彼は何者か。己も知らない。名もない。しかし一つだけ知っていることがある。それは死ぬべき人間であることを。

重い鉄の扉が開く。彼は考えた。餌を与えに来たのか、痛みを与えに来たのか。答えはどちらでもなかった。
骨と皮の腕を乱暴に掴み無理矢理歩かせる。慎重に一段一段階段を上り、再び重い扉を開く。その先には光が満ち溢れ、白磁の柱が宮殿を支え、先には庭園が広がり、最奥には白がそびえ立っていた。
彼の黒髪が揺れる。そこで初めて己の髪が黒いことを知った。

「ぼやぼやするな。行くぞ」

声の主を見上げると髭を蓄え、白銀の甲冑を身にまとっていた。漆黒の髪は短く、黒の瞳が彼を睨むように視線を向けていた。

「我らの主が待っている」

「――その前に、そのみすぼらしい身なりをなんとかせねばな」

男は乱暴に彼の頭を撫でた。







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