04 / Couver rs Mol-gouce shardain.[死の砂漠]

ハルスの中心にある湧水を占領するかのようにその建物は建っている。明らかに他の建物より大きく豪華で、金銀財宝で飾られた屋敷は一目で権力者のものだと分かる。
レイメは感嘆の声を漏らす。それは屋敷の絢爛さではなく、主の醜悪さについてだ。
恐らく砂漠で貴重な水を高く売買しているのだろう。今朝、遠くから水を運び入れる姿を見受けるところから予想される。

「しっかし、まぁ……あいつも何だってこんなところに」

手薄な警備なれど警戒しながら忍び込む。

「テウメッサ(砂狐)はどうした?!」
「は。申し訳ありません、テウメッサは現れず……」
「では、お前は出没しなかったからと言って帰ってきたのだな!この役たたずめが!!」

領主が男の鳩尾を蹴る。男は呻き声を押し殺すも、その場に倒れ伏す。何度も咳き込み、その度に血が溢れる。するとそれは絨毯に広がり、淡く染みる。
すると今度は絨毯を汚したと激昂し、肩を短刀で抉る様に掻き回し、更に嬲る。

「国家反逆罪の大罪人を匿ってやっているというのに、貴様は恩の欠片もないのか!」
「申し訳……がっ…っあァ」
「役たたずめが……!所詮はただの奴隷、仕事もろくにできないとなればただのゴミでしかない。いいか、明日こそテウメッサを捕まえず帰ってきてみろ。お前の手足を使い物にならなくした状態で奴隷商人に売りつけてやるからな!」

領主はそう怒鳴りつけ、部屋を後にした。
レイメはあわてて物陰に隠れる。領主の膨らんた腹を横目にする。

「いつまでコソコソ隠れているつもりだ。白髪の分際で」
「うおっ、お前大丈夫か!?ていうか、白髪っていうのやめろよ」
「うるさい黙れ住居不法侵入野郎。あまりうるさいと泥棒として突き出すぞ」

心配して追いかけてきてやったのにその言い草は何だと心の中で思うも、的確過ぎて言い返す言葉がない。

「見つかる前に出てった方がいいぞ」
「でもお前のその傷」
「大丈夫だ、問題ない。あのデブに殴られるのはいつものことだからな……」

傷口を強く抑える。本来なら殴られれば抵抗の意を示す。しかし、それを示すわけにはいかない。耐え忍ばねばならない。手が怒りに震えていた。また、恐怖心というものも僅かにある。

心配そうに見つめるレイメと目が合うと、更なる苛立ちを覚える。何故己より小さく、弱く、老け顔の、しかも白髪に心配されねばならないのかと。

「偽善野郎が……いい迷惑だっつーの………そんなに心配ならどこかで落ち合えばいい。流石に屋敷で見られるわけにはいかないからな」
「お前、それで本当に約束守るのか?」
「ああ、守ってやる。その代わり家まで運べ。仕方ねぇから運ばれてやる」

相変わらずの態度だが、そろそろ顔が限界だと訴えている。レイメは渋々頷き、一歩先に屋敷を後にした。



「ねーえーお腹すいたよー無一文だよー辛いよー」

駄々をこねるエマを、ロームングルは何事もなかったかのように無視を決め込む。甘やかした張本人ではあるのだが、何も悪いとは思っていないらしい。

正真正銘何も無いこの家に飽き飽きし、エマは粗末すぎる寝台に仰向けになる。その顔は憂鬱そのもので、心の底から金の有り難みを噛み締めている。

「ポリュペイモスが金とはなんたるかを口うるさく説いていたけど、その意味がようやくわかった気がするよロームングル」

しかし近辺に王族が二人も、否。真の王が二人もいたせいでそれでも実感が少し薄い。

「だから、ロームングルももう少しお金を大事にした方がいいよ」
「……御意」
「本当に分かってる?ロームングルが一番荒いんだからね!」

イルヤが大きく欠伸をもらす。訝しげに眉をひそめるも、その表情の分からない彼に必要以上の詮索をしても意味がない。エマはため息をつき、硬い枕顔をうずめた。
その時、イルヤが嬉々として鎌首を擡げる。
粗末なドアが開き、レイメと、おぶられた男が家に帰ってきた。

「おかえ、り」

エマは言葉をつまらせる。男は酷く苦しそうな顔をし、更には渇いた咳を何度も繰り返している。腹を強く抑え、その手から血が滲み出ていた。

「ねぇ大丈夫?!は、早く手当しないと」

紫水の瞳が不安げに揺れる。しかし男は相変わらずの悪態を吐き続けた。

「死ぬわけないだろうが。これくらいの怪我、熱した鉄板でも押し当てて止血すりゃなんとかなる」
「ならないよ!そんなの痛いよ、ちゃんと手当しようよ」

男は小さく舌打ちする。しないのではない。出来ないのだ。
尾てい骨周辺に打たれた焼印が酷く疼く。何も知らない。人という生物である故に知らないのだ。人間とすら認められない者のことが。

「おい、えぇと…名前」
「名などない。……そんなもの、俺には必要ない…」

男は顔を埋めた。それは傷によるものなのか、心傷によるものなのか、レイメには分からなかった。「ごめん」と小さく謝るが、反応が帰ってこない。

不意に、男の腰から下げてる革袋から一匹の狐の子供が鼻をヒクヒク鳴らし顔を覗かせる。

「狐さん?」
「テウメッサだな」
「テウメッサですねー……」

小さくまだ丸みを帯びた爪を男の衣に引っ掛けよじ登る。


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