03 / Couver rs Mol-gouce shardain.[死の砂漠]

アクラガス国は男に死罪を言い渡した。王を殺そうとした不敬罪、そして国家反逆罪であるとーー


レイメが今いるところはハルスという小さな町である。かつて暗黒大陸と呼ばれた呪われた地に唯一人が済むところだろう。
ハルスは小さく質素ながらも人々に活気があり、雰囲気は明るい。売りに出されている品物も食品から武具の素材まで様々だ。果てにはエスガリオンの攻殻だけでなく毒を特殊な技術で宝玉化したものまで売っている。
町にはハルス市民だけでなく、様々な地域から集まる行承人の姿も認められる。それは人間以外にもエルフやオーク、ゴブリン等の魔族もいる。
オークらは武具の素材を求め、ゴブリンは宝玉を求めてやってくる。

宝玉とは新たな魔力を生み出す装置のようなもので、高位のゴブリンはそれを体に埋め込む者が多い。魔導は通常魔導士にしか使えないが(といってもエマを含めると史上に10人しかいない)、宝玉の力を借りれば魔導が使用できるようになる。しかしそれができるのは一部のゴブリンだけで、他のどの種族も宝玉を使って魔導を使うことはできないのである。

その宝玉や素材を水や食物に加え金と交換し、彼らは公益をしている。

「レーイーメー!お小遣い欲しいー!」
「あげないって言ったらあげません!そもそもお前ユリウス殿から貰ってるだろうが」
「貰ってないよ!貰ったと思ったら何故か溶けない5ルゥブチョコだったよ!」

エマは遺憾に頬を膨らませ、件のチョコを噛じる。その表情は怒っているが子供らしく美味しそうにしている。

「ロームングルさんは持っていないのですか?」
「……5ルゥブチョコだった」

問題ないかのように言い放つ。その言葉はレイメにとって如何なるものよりも辛く酷に届いた。
「レイメお金。」伸ばされる手は孫が小遣い欲しさに差し出すのと何ら変わらない。こいつは他人に対して少しの遠慮を知らないのかと心の中で愚痴を呟き、懐に手を入れる。そこにはあるはずの感触がなく、どこにもその気配が見当たらない。外套に仕込んでいる暗器を探ってもそれはいない。徐々に血の気が引いていく。
ロームングルは顔色を全く変えないが、エマの顔が青ざめる。

「まさか……」

深刻に放つその言葉は、どうか予想の答えを否定してくれと訴えている。しかし、それは覆ることなく、レイメは告げた。

「……どこかに、落とした」
「ええええええ?!僕たち無一文だよ!何にも買えないよ!あの人貧乏だから僕たち何も食べれないよ!」
「貧乏で悪かったな」
「デタァァァァァァァァ!!」

まるで幽霊が出たかのような反応をするエマに、男は呆れたように息を吐く。軽々とナミュブアン(砂漠兜虫)を担ぎ、一頭の凡そ2メルトルのティタノス(駱駝)に一匹の巨大なディメラメント(砂魚)を引かせている。

「…一人でやったのか」
「それがどうした。一人だろうが複数人だろうが関係ねぇだろうがハゲ」
「はっ…」

ロームングルに向かってハゲというその勇気に笑いが込み上げてくる。なんて命知らずの勇者なのか。それにしても相変わらず男は口が悪い。

イルヤが男に甘えるように頬擦りを寄せる。エマが珍しいなと呟く。それにあやかって手を伸ばすがイルヤに威嚇されるだけだった。

「何でこいつは…!」
「んー、分かんない。イルヤは元々他人には懐かないからねぇ」

「悪いが、俺はもう行くぞ。主が待ってる」
「ん、ああ…悪かったな」

男はナミュブアンを担ぎ直し、足を進める。
エマはにやにやとロームングルを見上げる。

「彼、このまま放っておくと死んじゃうよォ」
「…俺には関係ない」
「へぇ…。そうは思えないけど」

燦々と照る光を手で遮り、紅の瞳を細める。


「エマ、ちょっと行ってくる」
「うん!」





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