【クロイツ / 】



[物語]

───1.
教国の王クロイツは、同時に高名な錬金術士でもあった。しかし錬金術の失敗により右腕を失い、声を失った。それでも彼は戦争があれば前線に立ち、自ら指揮を取った。時にカンブレラ歴117年、ラーヴァナを殺すための術式が完成したと同時に、媒体が死んだ。彼は奇妙な笑い声をあげ、全てを燃やした。友の妻と子をも奪った。クロイツの体が焔に包まれた。

───2.
神の命を犠牲にして作り上げられた魔導、其れが錬金術。果てしない闇が続き、終わることのない静寂が続く。万物の臭いが感じられなければ、温もりすら感じない。これが錬金術士の成れの果てであった。そして友たる錬金術士も、錬金術の闇に囚われていた。何も見えず、何も聞こえない。深い闇に落とされ、唯一人、憎悪の声に苛まれる。そして禁忌に触れれば全てを失い、壊し、全てを闇に落とす。それが争いを終わらせるための魔導だった。

───3.
クロイツは友が死んだことを知った。友が残したものも消え去った。残るのは国の形と、錬金術のみ。教国は命を搾取する機械を長年に渡って使っていたため、この地の命は潰えてしまった。守るべきものは死に、国は壱へ帰した。錬金術は何も守らない。命の光を悪戯に咲かせるだけ、ただそれだけだ。クロイツは笑う。過ちに気が付いたその時、クロイツの命の光は潰え、零へと還る。錬金術も同時に零へと還った。願わくば錬金術がこの世界から永遠に消え去ることを。そして、錬金術を必要としない世になることを。最期の花が咲き誇る。




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