【パラケルスス / 】



[物語]

───1.
かつて人によって生み出された人工の魔導、錬金術。数多の神を犠牲にすることによってようやく術式は完成された。パラケルススは床に描かれた式を見て笑む。ただ一心に虚しきこの戦争を終わらせるために求めた魔導。師より受け継ぎし意志は、この後戦争に役立てられるだろう。さすればこの暗い世界に陽が差す。パラケルススは愛児の頬をそっと撫でた。

───2.
友たる教王はパラケルススの実験結果に喜んだ。ただ一心に戦いの終わりを望む教王。そして争いのない平和な世界を、誰もが笑い生きてゆける世界のために剣を取った。しかし、戦火は簡単に夢を壊した。パラケルススの魔導は誰も救わなかった。変わりに大切な愛児を奪い去った。かつて見た夢を真にするために、パラケルススは人が触れてはならぬ領域に手を伸ばす。其れは命の生成である。

───3.
パラケルススの錬金術は人の病を治してみせた。癒えぬ傷を治してみせた。時には他の命を奪ってみせた。彼の魔導は教国大きく貢献した。しかし喜びはなかった。新たな術を生み出しても生み出しても本当に望むものが生まれない。最早狂気に満ち、狂気はパラケルススの瞳から夢を見失わせた。気がつけば何を望んでいたのかすら分からない。愛児の名すら忘れた。妻の名も忘れた。しかしその時、ようやく命を生成する術は生まれた。





[ 15/24 ]


prev / next / mark / list / top





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -