【ユグドラシル / Yuggdorasil】
[物語]
───1.
エルフの祖エルヴィンが最後に植えた小さな命、其れがユグドラシル。彼はガイアの中心に聳え、大陸中にレーヴァテインの光を循環させる役割がある。大樹は淡く光る葉を騒がせる。巨大な根がうねり、死した者の命を吸い上げる。故にあらゆる生命がどの程度で消えるか分かる。大樹は月を見上げ、目を細める。知りたいはずがない。友がどの程度で死ぬのかなどということを。
───2.
赤く燃える。赤が招くは死と誕生。産まれてはならない者が産声をあげ、魂の塗り替えが為される。以前の魂は死に、代わりに新たな魂が産まれる。世の理であるはずなのに、それは禁忌でしかない。友の生が見えない。あってはならぬ厄災が視界を阻む。最中、恐怖に震えながらも力強く優しい歌声が、風に乗って伝えられた。
───3.
彼は彼であって、彼ではない。彼の器に彼の姿は居ない。混沌と渦巻く始まりがそこにあり、それは世界に始まりを齎した。友はどこに居るのか。必死に世界を探しても友は居ない。世界に"彼はいるのに何処にもいない"。何年何十年、何百年と時が流れ、己の命も尽きかけた刻、ようやく友の魂が老いた瞳に映し出された。そして彼はたった一度だけ歌を奏でる。
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