「このオルゴール、いい音だね」
「でもそれ、仕上げの時にうっかりピンを一つ折ってしまったんですよ」
「えっ、そうなの?全然分からなかった」
「少し巻き戻してこの辺りから…ここです。音が抜けてるでしょう?」
「へぇー、わざと間を開けてるのかと思った」
「貴方は原曲を知らなかったから気付かなかったんでしょうね」
「じゃあこんなに綺麗な音なのに失敗作?」
「はい。店には出せません」
「ふーん…それなら僕にこれ頂戴?」
「え?失敗作をですか?」
「うんっ」
「どうせならちゃんとピンが揃ったものを…」
「これが良い!」
「そんな頑なに…何故そこまでそれが良いんです?」
「だって成功作はいっぱいあっても一つ音のかけたオルゴールはこれしかないからレアだよ」
「そういう考え方も出来ますが…」
「それにこれはこれで味があるよ。職人の腕が良いからだね」
「ふふ、有り難うございます。それならどうぞ」
「やった!ありがとう。大切にするね」
「……実はそれ、貴方の事を考えていて折ってしまったんです。貴方の笑顔を思い浮かべたらつい集中力が欠けてしまって」
「そうなんだ……それなら尚更大切にしないとね。僕を想って出来たオルゴールだし」
「えぇ、私共々大切にして下さい」
「うんっ」
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11月10日『いい音・オルゴールの日』に因んで書いてみました。
オルゴール職人×近所の男の子です。
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