小さい頃から 幾度となく聞かされてきた名前がある

"矛兄"

顔は写真で見たことしか記憶にない
声は聞いた記憶もない
俺の兄貴

青い夜で死んだ 一番上の兄貴


"矛兄はお前らを守って死んだんや"
"やから、恥じんように生きぃ"

なんや それ

俺にも 坊や子猫さん守って死ねゆうことかいな

恥じん生き方ってなんやねん


"この錫杖は俺のもんや"
"お前を志摩家の男と認めて…"

この錫杖は
"護るためのもん"なんやな
坊を、子猫さんを、明陀を、血を…

あかんわお父
俺には 重いわ






なんでや
なんで明陀のやつはみんなこうなんや
"明陀のため"とか言うて
何だって簡単に切り捨てる
命でさえそうや

むしろそれが至高のように

ちゃうやろ
なんでみんな気付かへんのや
生きてなきゃ なんも出来へんやないか
明陀のためて、あんさんやって"明陀"やろ
死んでまで護るほどのものやない
みんな 命軽んじすぎや

明陀の人間はみんなどっかおかしい
死んだらもう喋られへん
死んだらもうなんも感じれん
死んだらもう…





死んだらもう…会われへんやないか…




俺は 明陀の"みんな"が好きや
叱られたり修行したりするのはめんどかったけど
一緒に遊んだり、喧嘩したりしたみんなが
もうみんなで遊ぶような歳やないけど
それでも好きや


叶わん相手が来たら逃げたってええやん
相討ちしてその場は収まるかもしれへんけど そんなん気休めやんか
生きてりゃいくらでも強くなれるやろ
死んだら 全部そこまでやのに
平気で それを選ばんとってや…




「みんな、阿呆や…っ」







生きて
みんなが居らん世界なんて見とおない








―――――――――――――
前サイトより

[ 3/26 ]

[*prev] [next#]