#弱さを認める者
「はぁっ!!」
「ほら、もっと小さく収束させてみろ!」
「ハイ!!」
小修練場で鳴り響くのは剣が交わる音だった。それに導かれるように莉亜はアリババとシャルルカンが修行する場に足を運ぶ。
「おう、莉亜じゃねぇか。どうした?」
『剣が交わる音がしたので少しずつのぞこうかと…邪魔してしまってすみません。』
「別に大丈夫だよ。なぁ、アリババ!」
「ハイ。ちょっとかっこ悪りぃけど、良かったら見てってくれよ。」
『ありがとうアリババ君。』
「そうだ、どうせだからお前ら打ち合ってみろよ。」
「『えっ、えええ!?』」
私がアリババ君と打ち合うなんて。なんだか緊張してしまう。アリババ君は女の子相手に真剣は使えないと言って師匠に抗議している。
『真剣でも大丈夫だよアリババ君。』
「でも…っ、」
「アリババ、お前莉亜のことなめてんだろ。言っておくが今のお前の実力じゃ莉亜に一太刀も浴びせらんねぇぞ。」
『師匠、言い過ぎです。』
「んなことねぇだろ。」
私は女だからあまり強くは見えないらしい。ちょっぴり悔しかったけど、仕方ないと割り切った。結局真剣で打ち合うことになり、アリババ君と距離を置いて向き合った。
「始めー。」
『…。』
「…。」
『打ち込んでこないの?なら私から行くね。』
タンッと軽く左足を踏み込み、アリババ君に向かって走る。師匠から貸してもらった普通の剣を持ち、思い切りアリババ君に打ち込んだ。
「ぐっ…なんだこの力…!?」
かろうじて、と言ったところだろうか。アリババ君は私の剣を受け止める。私はアリババ君を弾き返し、剣を再び構えた。
「言い忘れてたけど莉亜はファナリス並の力持ってるからな。なめてると死ぬぞ。」
『殺しませんよ!』
人を殺せるほど力は持っていない。ただ自惚れているわけではないけど、アリババ君にはきっと負けない。何故ならアリババ君は私と打ち合うことに抵抗を持っているから。
『アリババ君はきっと優しいんだね。優しいから私を傷つけるのが怖いんだよ。でも、時にはその優しさを捨てないと、本当に大切なものを失くしちゃうよ。』
「…っ、」
傷つけないことが優しさじゃない。時には傷付けて、守らなきゃいけないものだってあるんだ。自分の全力をかけて、挑まなきゃいけないんだよ。
「ごめん、莉亜もう一回手合わせお願いしていいか?」
『喜んで。』
アリババ君の目付きが変わった。きっと覚悟を決めてくれたんだね。アリババ君は左手を後ろに、そして右手で剣を構える。この構え方、王宮剣術だ。
「行くぜ。」
真っ直ぐ私を見据えるアリババ君。少しだけ胸が高鳴る。アリババ君はさっきとは比べ物にならないくらい私に打ち込んでくる。彼の王宮剣術は相当高度なものだ。でも私だって負けない。この二年間、遊んでたわけじゃないんだから。
『はあっ!!』
「うわっ!」
金属音を立ててアリババ君の剣は弾き飛ぶ。私はそれをチャンスに彼の首に剣を当てた。
「勝負ありだな。」
『ありがとうございました。』
スッと剣をアリババ君から離して、彼に手を差し伸べた。しかしアリババ君は一向に立ち上がろうとしない。
『悔しい?』
「悔しい。情けねぇよな。金属器持ってるからって自分の力を過信し過ぎたんだ。莉亜にも歯が立たなくて、師匠にも申し訳ねぇ。」
『師匠、とっても良い弟子とりましたね。』
「だろ?」
「なんで…、」
『自分の弱さを認めることが出来る人は、この先もっと強くなれる。アリババ君はちゃんと成長してるんだよ。』
「お前言うようになったなぁ莉亜〜!」
師匠に頭をぐりぐり撫でられる。頭がボサボサになりつつもアリババ君に手を差し出し、彼が手を掴んでくれるのを待った。
「莉亜、次は絶対勝つから。」
『次も負けないよ。』
ニッと笑うアリババ君は私の手を優しく掴んで立ち上がった。頑張れアリババ君。きっと貴方は強くなれるから。
「ありがとな莉亜!」
『!どういたしまして!』
太陽みたいに輝くアリババ君の髪が靡いた。
((弱さを認める者))