#記憶に埋もれて






『ん………、』

一体どれくらい寝ていたのだろうか。気がつけば日は昇っていて、思わず飛び起きた。

『私いつから…!?』

昨日の記憶が全くと言っていいほどない。お昼くらいにシンドリアに着いて、皆に私のことを話して、それで…あ、王様に運ばれたんだ。昼頃から寝て、もう朝ってことは何時間寝たんだ…。でも何故か夢を見なかった。それほど深い眠りについていたのだろう。ベットから起き上がりぐっと体を伸ばした。

きゅるる、とお腹が鳴る。そう言えばしばらく何も食べていない。何か口に入れないと体力も持たないため、とりあえず部屋を出て、王様の元へと向かった。

『失礼します。』

「ああ、莉亜。もう体調は大丈夫なのか?」

『はい。ありがとうございました。』

「いや、いいんだ。ちょうどよかった、君に紹介したい者達がいる。」

『紹介したい…?』

そう言えば王様の前に三人の子供がいる。と言っても私と身長が変わらないみたいだから年が近いかもしれない。

「紹介しよう。この子達はアラジン、アリババ、モルジアナだ。そして彼女は莉亜だ。」

左からアラジンくん、アリババくん、モルジアナちゃんと紹介された。三人の髪がまるで信号機のようで思わず笑いそうになってしまう。

「モルジアナと言います。よろしくお願いします。」

『莉亜って言います。よろしくねモルジアナちゃん。』

「どうかモルジアナと呼んでください。」

『いいの?じゃあモルジアナって呼ぶね。そう言えば…モルジアナはマスルールさんに似てるね。ファナリスなの?』

「はい。」

『そっか、じゃあモルジアナがいれば百人力だね。』

私がそう言えばモルジアナは顔を赤くして照れてしまった。その可愛らしい仕草に胸がきゅうんと締め付けられる。

「俺はアリババ、よろしくな!」

『莉亜って言います。よろしくアリババ君。』

スッと差し出されたアリババ君の手を、何の迷いもなく握った。その瞬間、頭の中に何かが流れてくる。

それは悲しい物語。運命を嘆き、全てを恨み、闇に落ちた少年と友達を救いきれなかった少年。少年が、魂が、ルフが泣いていた。

「カシム…っ!」

「!?…えっ、あっ、ごめん!強く握り過ぎたか!?痛かった!?」

『ちが…っ、ごめんね、目にゴミが入っちゃって…大丈夫だよ!』

今のはアリババ君の記憶だろうか。とても哀しい気持ちになってしまった。無意識に流れた涙を拭ってアリババ君を安心させるように笑う。

『えーっと。アラジン君…だよね?莉亜って言います。よろしくね。』

「リアさん…だよね…?」

『!!』

アラジン君に名前を呼ばれた瞬間に頭の中で何かが弾ける感覚がした。そして、何故か忘れていたのかわからない彼との記憶が一気に頭に流れ込んでくる。

『ウーゴ君…アラジン君…私は探す………、』

「莉亜?」

『思い出した…私は…ウーゴ君に会って…そこでアラジン君と……、』

「思い出してくれたかい?リアさん。」

『思い出したよ…そう、アラジン君だ…!会いたかった…!!』

「僕もだよリアさん!」

私より小さいアラジン君をぎゅっと抱きしめた。そう、アラジン君は私がシンドリアに来る前に聖宮で会ったこの世界で初めての友達だ。そして私の使命は「ミシャンドラ」さんを探すこと。

「なんだ、アラジンと知り合いだったのか?」

『はい。旅の途中で会いました。ね、アラジン君。』

「う、うん。そうだよ。」

「……そうか。」

ギラリと王様の瞳が私を見据える。あの顔は何か考えてる時の顔。私が一番嫌いな表情だ。本当は旅の途中で会ったわけじゃないけれど、王様には本当のことを話してはいけない気がするから、嘘をついた。

「莉亜は八人将じゃないんだよな?」

『うん、私はそもそもシンドリアの人間じゃないから。王様に恩があって少し前までシンドリアにいたの。』

「そうだったのか。」

へえー!と子供らしい表情を見せるアリババ君。年の近い男の子と話すのは久しぶりなので少し照れくさかった。

「さぁ、アラジン、アリババ、モルジアナは各自修行だ!行っておいで!」

『頑張ってね。』

修行に向かう三人に手を振って見送る。また後でゆっくり話したいと思った。

「莉亜。」

『何でしょうか王様。』

「近々、煌帝国から皇子がシンドリアに留学に来る。」

『煌帝国の皇子が…?』

「ああ、両国の親善のための計らいだろう。」

『そうですか。』

本当に親善のためだろうか。わざわざ皇子が留学しに来るなんておかしい気がする。とにかく警戒しておくに越したことはない。

「莉亜、あまり無理はしないでくれよ。」

『大丈夫です。これでも修行は積んできましたから。』

王様が体の心配をしてくれていることに知らないふりをして、王様に背を向けた。本当は怖くて向き合えないだけなんて、誰にも言えるはずなかった。



((記憶に埋もれて))

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