#憎悪の先に見えるもの
ああ、この温かい空気、そして優しい光。何もかもが久しぶりで、泣きそうになってしまう。
「莉亜…?お前…莉亜なのか……?」
『はい、師匠。正真正銘の莉亜ですよ。』
あまりにも突然に現れた莉亜が本物の莉亜なのか、正直八人将全員が疑った。しかしシンドバッドだけは彼女は莉亜なのだと確信があった。
「なんで…莉亜…私、ずっと…っ、」
『ヤムさん、黙って出て行ってごめんなさい。でも私は今まで一度もシンドリアを忘れたことはありません。』
「っ、莉亜〜!!」
『わっ、や、ヤムさん苦しいれす〜!』
まるで莉亜がシンドリアにいた頃に戻ったようだとシンドバッド達は思った。しかし、何故莉亜がこのタイミングでシンドリアに帰ってきたのか、それが一番の謎だ。
「あの…、あの人誰なんすか、」
「あいつは莉亜、ちょっと前までシンドリアにいたんだ。」
「……。」
アラジンはジッと莉亜の方を見て何かを考えていた。そしてシンドバッドは初めて莉亜に対して口を開く。
「とにかく今は謝肉宴<マハラガーン>の準備だ!八人将と莉亜は紫獅塔へ。」
「「「仰せのままに、王よ。」」」
『はい。』
動揺に揺れるシンドバッドの瞳を莉亜は見逃さなかった。そしてシンドバッドの言う通り、八人将と共に紫獅塔に向かう。
「莉亜、よく戻った。まずは君が無事に戻ったことを喜ぼう。しかし何故この時期に戻ってきた。今まで何をしていたんだ。」
『黙ってシンドリアを出て行って申し訳ありませんでした。しかし私は戻ってきたわけではありません。』
「「「!?」」」
「莉亜…何を言っているの?」
『私がここに再び訪れたのは、王様にお願いがあったからです。』
「お願い…?」
『はい、私を留学生として煌帝国に行かせていただきたい。』
「何…!?」
そう、これが私の本当の目的。私が今為すべきこと。私は今までの経緯を話した、今まで何をしていたのかを。
『私はこの世界を知りたくて、ユナンと旅に出ました。色々な国を回って、たくさんの人々と出会い、そしてこの世界の異変を知りました。私、何も知らなかった。この世界に奴隷制度があることも、当たり前に飢え死にしてしまう人々がいることも。そして私は数度アル・サーメンに遭遇しました。』
「アル・サーメンと!?」
『はい。私はアル・サーメンについて調査をし始めました。彼らの本当の目的を知るために。そして、それを知るためには煌帝国に行かなければならないんです。煌帝国にはマギであるジュダルくん、そしてアル・サーメンを操る者達がいる。煌帝国に行くのが一番の近道なのです。しかし煌帝国の王宮に私のような者が入れるはずもない。』
「だからシンドリアの留学生として行きたい、と。」
『はい。タダでとは言いません。必ず利益を得てきます。』
これで王様が断るならば、私は他の方法を考えるまで。利用出来るものは利用する。それは王様が一番知っているはずだ。
「少し考えさせてくれ。」
『もちろんです。』
「そう言えばカナンはどうした?一緒に旅をしていたのではなかったか?」
カナン、と言う言葉が出てきた瞬間、その場の空気がドンと重くなった。莉亜はぎゅっと拳を握りしめ、彼女の瞳は憎しみに溢れていた。
『カナンは私が殺しました。』
((憎悪の先に見えるもの))