#泣き虫皇子



『貴方…ザガンじゃないですよね。』

ザガンの手の中にいる莉亜は唐突に言葉を投げかけた。目を見開き驚く表情を見せるザガンは、思わず手を放しそうになった。

【どうしてそう思うんだい?】

『貴方に流れる魔力と、貴方のルフが教えてくれますから。』

【へぇ。やっぱり君は捕まえてて良かったよ。】

『私が…本気で捕まったと思いますか?』

【何…?】

私は本気で捕まったわけじゃない。これは四人のためだった。私があの場にいれば、私自身が彼等を助けてしまう。それではザガンは王の器を見定めることが出来ない。私が捕まれば、きっと彼等は助け合ってここに辿り着くはず。

『私はいつでも貴方を倒すことが出来る。』

【ずいぶん自惚れてるじゃないか!】

『!』

再び手に力を込めるザガンもどき。しかしさっきは抵抗せずにいたが、アラジン君たちがいないのならその必要はない。私は腕に力を入れて、無理矢理手をこじ開ける。

【なんだと…!?】

『言ったでしょう。私は貴方をいつでも倒せると。でも貴方を倒すのは私じゃない。アラジン君達です。』

【それはどうかなぁ〜。君よりもはるかに弱い彼等が生き残れると思うかい?】

『当たり前でしょう。アラジン君達ならきっと大丈夫。』

***

その頃アラジン達は次々に迷宮生物を倒していき、着々と迷宮の奥へと進んでいく。しかし途中でモルジアナと白龍は苦戦を強いられ、白龍は途中で気を失ってしまっていた。目が覚めた白龍は酷く自分を責めている。そんな空気を陽気な声で壊すザガンの偽物は白龍を嘲笑った。

【君ってほんと、何もできない…弱虫だよね〜〜〜!】

『ちょっと!!そんなことない!!白龍君だって…、』

「わかってますよ〜〜そんなことは〜!うわあああ!!!」

泣き崩れる白龍を目の前にしたアリババ達は思わずたじたじとした。そんな中、莉亜だけはホッとした表情を見せている。

「俺だってがんばってんだよぉ〜〜〜なのになんでできないんだよなんでだよぉ〜〜!」

【あ…あわあわ?泣いちゃった?弱虫くんが泣いちゃった?ハハ…、】

「うっせーバカ変態仮面!!」

「お…落ち着けよ白龍!」

「うるさい!大体あんたはなんなんだよ!?どうしてあんたみたいないいかげんな奴が強いんだ!?自分の国放っぽってシンドリアでのんびりしてるよーな奴がよーーー!!」

「!!ちょっと白龍さん、それは言い過ぎ…、」

「うるせー怪力女!!」

「お、おにいさん落ち着いて…、」

「お前もうるさいチビ助が!!」

白龍君は今まで以上に感情を露わにしていた。そんな白龍君を見て正直安心した。今の白龍君が一番白龍君らしい気がしたから。しかしこれ以上は冷静になった時の白龍君が立ち直れなくなってしまう。そうなった時はまずい。

『白龍君、とにかく今は落ち着いて。』

「お前もお前なんだよ!!ユリじゃないとか言って!お前は誰でもないユリだ!!こっちがどれだけ心配したと思ってる!?何年も手がかりを集めて探してたんだぞ!?なのにいきなり目の前に現れて、記憶までなくして!!俺はずっとお前を想って…!!うっ、うわああぁあ!!!」

開いた口が塞がらなかった。白龍君がどれだけユリさんを思っているのか知らなかった。こんなにもユリさんを想っていたなんて…。でも私はユリさんじゃない…はずなんだ。でもここまで白龍君が言うのだから自信がなくなってきた。一体どうすればいいのだろうか。そんなことを思っているうちに、ザガンの偽物は号泣する白龍君に若干引きつつ、しばらく彼らの様子を見るのを止めた。

***

アラジン、アリババ、モルジアナ、そして白龍は一連の流れでまとまり始めていた。四人は互いに背中を預けてついにザガンの偽物の元に辿り着く。しかしザガンのそばにトランの少女と莉亜はいなかった。

偽物のザガンとの戦いに苦戦するも、モルジアナは眷属器を発動させた。アモンより生まれし炎熱の眷属器"炎翼鉄鎖"はザガンの偽物の本体である迷宮生物を見事に倒し、勝利を収める。

「私…私…みなさん…私…やりました…!」

色んな場所から血を流すモルジアナはその場に倒れ動けなくなった。捕まっていた莉亜は急いでモルジアナの側へ駆け寄る。

『モルジアナ!!』

「モルジアナ!!おい!大丈夫か!」

下へと降りてきたアラジン君、アリババ君、白龍君はモルジアナの側へ走ってきた。血塗れのモルジアナをそっと抱き起こすアリババ君。

『モルジアナの魔力が…っ、』

「魔力がなんだよ!」

『さっきの大技で魔力が切れかかってるの…モルジアナは元々魔力の量が少なかった。でもこんな無茶をしてっ…、』

「…しかもこのように…一瞬で大量の魔力を失ってしまうと…命を落としかねない!」

「なっ!?」

モルジアナは医者にみせないと死んでしまう。間に合うだろうか。モルジアナを救えるだろうか。モルジアナが死んでしまうのではないかと思ったら震えが止まらなかった。また失うのか、カナンの時のように。嫌だ、絶対に嫌!!

『!…8型の魔法なら…!』

「え?」

『私の魔法なら、少しでも楽にしてあげられるかもしれない…!』

「本当か!」

『わからない…でもやってみる…!』

私がマグノシュダッドで学んだのは人を傷つけるような魔法ばかりだった。あの時は憎しみが私を振るい立たせていたのだ。アル・サーメンに復讐するために攻撃系の魔法ばかり学んでいた。あの時ちゃんと回復系の魔法を学んでおけば…!

私はモルジアナの手を握り、魔法を唱えた。これは私の魔力をモルジアナに送る魔法。私の力は減るが、モルジアナの魔力が回復するはずだ。

『ごめんねモルジアナっ…絶対助けるからっ…!』

モルジアナに魔力を送ってる間に、ザガンの偽物だった本体がモルジアナが倒した化け物からチョコンと出てきた。ずいぶん可愛らしい容姿をしている。彼はザガン本体から離れ悪戯のつもりでトランの民を攫っていたらしい。しかしもう力の残っていない小さなザガンの偽物は、宝物庫までの道のりを教えてくれた。 その直後だった。

パンっと小さな迷宮生物の首が飛んだ。地面から鋭い岩の塊が首をはねたのだ。バッと後ろを振り向けば、黒いルフを従えた三人が私達を見下している。

『皆!!早く宝物庫へ!!!』

「!?わかった!!」

アリババ君はモルジアナを横抱きにし、宝物庫走った。私はモルジアナの手を握り、魔力を送り続ける。

「開け…ゴマッ!!」

まだ宝物庫は開けられていなかった。マギであるアラジンは宝物庫の扉を開ける。その瞬間私達に岩石の龍が襲いかかってきた。

『くっ!』

「ぐっ…!!」

アラジンと莉亜は防御壁で龍の攻撃を防いだ。しかし莉亜はモルジアナに魔力を送り続けているため、今は防ぐのが精一杯だった。

「やぁ、また会えたね…"マギ"よ。そして弱く愚かな王の現し身よ。」

『イスナーン…!!』

「こいつら…トランの市場にいた商人じゃねーか…!?」

「直にあいさつするのは初めてだな…"アラジン"。しかし私は君をよく知っているよ。」

こんな時にアル・サーメンが襲撃してくるなんて…!正直皆は万全な状態じゃない。あまりにも危険すぎる。だからと言って逃げられるわけじゃない。

「リアさん!白龍おにいさん!モルさんと女の子を安全な場所へ!!」

「…!ハイ!」

『っ、アラジン君すぐ行くから!!』

「大丈夫だよ…!」

私と白龍君はその場から離れ安全だと思われる場所へと向かった。とにかく今はモルジアナを助けなければならない。

『二人とも…無事でいて…!』

モルジアナの手を握る莉亜の手にはいつの間にか力が込められていた。


((泣き虫皇子))


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