#果たすべき使命



真っ白く、もこもことした雲が揺蕩う空は、果てしなく遠い場所まで続いていた。ゆっくりと聞こえる波の音は自然の子守唄。しかし、そんな落ち着いた雰囲気に似合わない招かれざる客が、私の意識を覚醒させる。

「南海生物だ!!南海生物が出たぞ!!」

「私に任せて!」

私達の道を阻む南海生物を、ピスティさんが対処してくれた。ピスティさんは動物と仲良くなれる不思議な人だ。

「高い高ーい!」

「どっちが高く跳べるか競争しよーぜアラジン!」

イルカに乗って跳ぶアラジン君とアリババ君は大はしゃぎをしていた。遠巻きに二人を見るモルジアナにピスティはイルカに乗ることを勧めていたが、モルジアナは不安そうな表情を見せる。

「大丈夫だよ。イルカたちが良くしてくれるよ。あの子たちは今、私の笛で友好的になっているからね。」

ピスティは羽の形をした笛を手に持ち、モルジアナを安心させるように説明をしていた。しかし、モルジアナは丁重に断って、結局大はしゃぎをする二人を見ていたのだった。

「あ〜泳いだ泳いだ〜。」

「すっごく楽しかったな〜!」

「そう?よかった!」

『二人共ちゃんと体拭いてね。風邪引いちゃうから。』

「おう!さんきゅー莉亜!」

「莉亜さん拭いてー!」

『もうアラジン君ったら。』

なんて言いつつも、私はアラジン君の体を丁寧に拭いてあげた。なんだか弟が出来たみたいで少し嬉しかった。

「ありがとう莉亜さん!それにピスティ………ちゃん?」

「私のことも、ヤムみたくお姉さんって呼んでくれないの?」

「?おねえさんなのかい?」

「うん、私アリババくんより年上だよ!」

「「えっ!?」」

ピスティはすでに18歳、そしてアリババはもうすぐ18歳だった。背が小さいからか、アラジンとアリババは酷く驚いている。

「莉亜も18歳だもんね!」

『はい。なったばかりですけどね。』

「へぇ、じゃあ俺より年上なんだな!」

『あんまり変わらないよ。数ヶ月の差だもん。』

なんて話していると、アラジン君はぬっと出てきてピスティさんの胸を触った。

「おねい…さん…?」

「ひどいアラジンくん!」

『あっアラジン君!失礼なこと言っちゃダメだよ!』

アラジン君のお姉さんの基準は胸みたいだ。ピスティさんの胸を触ってうーんと困っている。

「皆さん、昼食が出来ましたよ。」

「わああ!!」

「すげーーこれ、全部白龍が作ったのか!?」

「客人に…しかも一国の皇子に料理をさせてしまうなど…!」

「あっいえ、お世話になってばかりで落ち着かず、俺が勝手にしたことで…、」

白龍君はとても美味しそうな食事を私達に振舞ってくれた。料理人は申し訳なさそうにしていたが、白龍君は嫌な顔なんてするはずもなく、むしろシンドリアに感謝をしている。

「君は将来、いいダンナ様になるよ。ねぇ、莉亜!」

『はい、白龍君のお嫁さんになれる女性が羨ましいですね。あっ、変な意味ではなく。』

「えっ、あっ、ありがとう…ございます…。」

「白龍顔赤いぞ。大丈夫かよ。」

「お構いなく!!」

白龍君は自分で料理を出来て、とてもしっかりとした皇子だった。だからこそ誰もが疑問に思ったのだ。何故、迷宮攻略なんて危険なものに付いてくるのか、と。そう時は少し前に遡る。

***

「アラジン、アリババくん、モルジアナの三人に迷宮攻略を頼みたい!」

王様が三人を集めたのは迷宮攻略のためだった。南海に位置する迷宮は他国に発見はされていなかった。しかし、王様を含め、その眷属である者達は迷宮に入ることが出来ない。よって、アラジン達に迷宮攻略を頼んだ。

「あの…俺もどうか同行させてください。」

「白龍皇子!」

「俺は君を皇帝陛下から預かっている。安易に危険には晒せられんが…?」

「ご迷惑はかけません!万が一、俺が命を落としてもあくまで自己の責任であると証書を残し、本国へ送ります。俺はかねてより、迷宮攻略を望みマギ殿を探していたのです。」

「しかし…煌帝国にはすでにマギたるジュダルがおり、各将に迷宮を斡旋していると聞いたが?君は、奴の目には留まらなかったというわけかな?」

「いえ…、」

「では…、」

「彼の力だけは、どうしても、借りるわけには参りません。」

「だろうな…、よし…同行を認めよう。」

『お待ちください。』

話がまとまったところで私はストップをかける。いくら何でも四人では危険すぎる。迷宮攻略は本当に何があるかわからないのだ。

『私も同行させてください。』

「何故だ。」

『白龍皇子様は一国の皇子。死なせるわけにはいかないのです。彼らの力を信用していないわけではありません。しかし、いくら何でも危険過ぎる。私なら盾くらいにはなれます。』

「莉亜殿…!!」

『王様、どうか同行をお許しください。』

「…ダメと言っても聞かないのだろう。…わかった、必ず皇子を守ってくれ。」

『仰せのままに。』

***

白龍君にはきっと果たさなければならない使命があるのだと思った。だからこそ守らないといけない。白龍君も、そして三人も。

「着いたー!」

この先、何があっても。


((果たすべき使命))

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