#炎に消えた君
*白龍side*
今まで忘れたことはなかった。
弱かった俺を守ってくれた小さな小さな女子。
『白龍君っ!』泣き虫な俺を君はいつも笑顔で包み込んでくれた。
炎が攫っていった君が俺の目の前にいるなんて。
信じられなかった。俺がまだ小さな頃に短い時間を一緒に過ごした女子(おなご)が成長して俺の目の前に現れた事が。名前も髪と瞳の色も違う。でも、わかるんだ。絶対に俺が知っている女子だと。
『こちらが王宮でございます。白龍皇子様と紅玉姫様はこちらの紫獅塔でお休みになってくださいませ。』
「ありがとうございます。」
あの日、炎と共に消えたユリは遺体すら見つからなかった。ずっと探していたんだ。でも何の手掛かりすら掴めなかった。
『白龍皇子様?』
「あっ…すみません。」
『長旅でお疲れでしょう。ゆっくりとくつろいでいただければ幸いでございます。何かありましたらお呼びください。』
「ありがとうございます。」
では、と頭を下げてこの場を立ち去るユリ…いや莉亜殿。本当に彼女はユリではないのか?記憶を失っているだけなのでは?
「ちょっとぉ、本当にあの子はお姉様ではないのぉ?」
「わかりません。しかし、あまりにも似過ぎている。」
「そうよねぇ。あの子はどう見たってユリお姉様にしか見えないわぁ。」
やはりどう見てもユリにしか見えない。俺もそう思う。とにかく今はそんなこと言っていられない。ここに来た目的は、シンドバッド王に話を聞いてもらう為なのだから。
俺と紅玉姉上はそれぞれの部屋へと入っていった。長旅で疲れたが今は休んでいる暇などない。そんな暇があるならシンドバッド王に話を聞いてもらいたかった。いても立ってもいられず、部屋から出ようとした瞬間、ドアをノックされた。ドアを開ければ二人の少年が立っている。
「やあ、こんばんは。僕はアラジン。僕たちおにいさんと話がしたくて来たんだ。おにいさんのお姉さんは…練白瑛さんっていうんだよね?」
「何故姉上の名を…?"アラジン"…?まさか君が…マギのアラジン殿なのでは…!?」
「!?僕を知っているのかい?」
たった一人の大切な姉弟を救ってくれた人だ。姉上からその話を聞いた時は本当に感謝の気持ちしかなかった。ずっと会いたかった。その理由はお礼を言う為だけではない。マギ殿にも話を聞いてほしいことがあるからだ。
「皇子よ、シンドバッド王がお呼びです。」
「残念ですが、行かなくては…、」
「うん、またゆっくり話をしようよ!アリババくんもね!」
「おう!俺はアリババ、また今度な!」
「はい!アリババ殿、あまりお話できませんでしたが、またの機会にこそぜひ。」
「おう!」
俺はアラジン殿とアリババ殿に挨拶をし、部屋を後にした。少し早歩きでシンドバッド王の元に向かう。いよいよだ。やっとシンドバッド王に話を聞いてもらえる。
必ず目的を果たしてみせる。俺自身の為に。
((炎に消えた君))