#もう一人の王
誰もが平穏を、
そして幸せを願った。
この日々がずっと続けばいいと思っていたのに。
いつの間にか歯車が噛み合わなくなっていた。
『嘘だ…、』
【嘘ではない。これは全て事実だ。】
ミシャンドラさんに見せられた記憶に、私が何故生まれたのか、そして何のためにこの世界に来たのかも理解した。あまりにも信じがたい真実に、私はただ涙を流す。
『じゃあ、私はアラジン君とこの世界を守るために…生まれたんですか…、』
【そうだ。】
あまりにもスケールの大きい話になってしまった。何より、私が背負うにはあまりにも大きい命の重みを抱えてしまった。
「リアさん…、」
『何か変だと思ったんだ…、向こうの世界では落ちこぼれだったのに、こっちの世界ではあまりにも出来すぎた体だったんだもの…、』
【お前の体が向こうの世界に合わなかっただけだ。しかしこうする以外方法が無かった。】
『っなら!父も母も本当の両親じゃないんですか…!?』
【…ああ。】
そうか、16年間育ててくれた両親は私の本当の両親じゃなかったのか。それでも私は愛情を注がれて生きてきた。本当の両親じゃなくても、私の両親に変わりない。グッと拳を握り、ミシャンドラさんを見上げた。
【いい瞳だ。だからこそ、私はお前を選んだのだ。】
『ミシャンドラさん、私は力が欲しい。この世界を守る力が。意志を継ぎたい、この世界に希望を残してくれたあの人の為に。』
その言葉は莉亜のけじめだった。辛い事実を知ったにも関わらず、それでも気高くま前に進もうとする莉亜。その意志に反応するように莉亜の右目は金色に光り、その瞳に八芒星が浮かんだ。
【お前の力はお前の心次第。しかしその力は半分に過ぎない。私はもう半分をお前に返す。きっと今のお前にはこの力を制御できるだろう。】
『はい。』
【マギよ、莉亜と共にソロモンの意志を繋いでくれ。】
「もちろんだよ。この世界を終わらせたりなんかしない。」
【感謝する。莉亜、私は正式なジンではない。しかし私の力を貸すことは出来る。金属器と同様の力が使える。】
『ありがとうございますミシャンドラさん。』
【ミシャでいい。私が王と認めたのだから。偉大なるもう一人の王の意志を継ぐ者よ、ルフの加護があらんことを…、】
ミシャがスッと両手を胸の前に合わせた瞬間、全てが光に包まれた。カナン、私頑張るから。自分の出来ることを精一杯やるから。だから見守っていてねーーー。
『…ん、』
「莉亜っ、良かった…もう戻ってこないのかと…、」
『王様…、』
気がついたら王様が不安そうな表情で、私の手を握っていた。その傍でアリババ君もホッとしたような表情を見せている。
「…ん、あれ…、」
「アラジン!良かった!心配したんだぜ二人共!」
『ごめんなさい…、』
とても心配させてしまったらしい。しかし何故二人共この部屋にいるのだろうか。
「王よ!アル・サーメンは増えていくばかりです!!」
「くっ…、まだ増えるのか…どうしても莉亜を奪いたいらしいな。」
『アル・サーメンがいるんですか!?』
「莉亜の黒ルフ誘われたようだ。」
『!!』
私が堕転しかけてしまったからアル・サーメンを招いてしまったなんて…、私はなんてことをしてしまったのだろうか。またこの国を危険に晒してしまった。
『私が行きます。』
「!?ダメだ、許可出来ない!君を狙っているんだぞ!」
『だからこそです…!私にはこの国を危険に晒してしまった責任があります!』
「リアさん…、」
『大丈夫だよアラジン君。もう立ち止まらないから。』
私はベッドから飛び出して緑射塔を出た。上空を見上げれば何十人ものアル・サーメンが私を一斉に視界に入れた。
「やっと来たか。」
「さぁ、貴様もこちら側へ来い。」
「我らが父のために。」
「「「我らが父のために。」」」
二年前に会った仮面の男…イスナーンが私に手を差し出す。私は浮遊魔法を使って上空へと飛んだ。
「貴様はすぐに堕転する。脆くて弱い愚かな王の現し身よ。」
『そうですね。私は弱い。大切な人一人すら守れないもの。』
「貴様が殺したあの女のことか。大した力も無いくせに歯向かって死んだ愚かな女。貴様の運命が殺したのだ。」
『貴方にもその気持ちがわかるんでしょう?大切なものを失った時の気持ちが。辛い、悲しい、どうして自分の大切なものが死んでしまったんだって。』
どうしようない憤りをどうすればいいかわからない。こんな運命なんていらない。そう思ってた。それは誰でも同じなんだ。それを乗り越えるか、それとも乗り越えられず立ち止まるかが堕転の基準。
『貴方は立ち止まってしまったのですね。』
私は手を胸の前に上げて、何か持つような形で手を握った。
『ミシャ、力を貸して。』
莉亜の周りにはルフが集まる。その様子は誰が見てもマギにしか見えなかった。ルフは莉亜の手に集まり、それはやがて金色の杖になる。その杖には八芒星を宿していた。
『私が背中を押します。運命を乗り越えられない人間なんていないから。』
「貴様っ、その杖は…まさかあの力を…!」
『聖光凜火<ミシャガ・イザミナーザ>』
莉亜はまるで空中に地面があるかのように杖をトンとつく。その瞬間、杖から光が溢れ、その光はシンドリアを包み込んだ。
「「「ああああぁあぁああぁあ!!」」」
「くっ…、必ず貴様は堕転する!その手で大切なものを殺すだろう!」
『守る。ただそれだけです。』
莉亜の力によって何十人といたアル・サーメンは全て人形に戻って消えていった。しかし、イスナーンだけは逃げたのだった。
『ごめんなさい…イスナーン…、』
守れなくて、ごめんなさい。イスナーンの気持ちがわからないわけではない。彼も同じなのだから。
莉亜は魔力の使い過ぎで、浮遊魔法が切れてしまう。重力に逆らうことなく真っ逆さまに落ちていく莉亜を受け止めたのはマスルールだった。
「お前はまた無茶をする。」
『すみません…、』
「リアさん!大丈夫かい!?」
『アラジン君…大丈夫だよ。』
心配そうに駆け寄ってくるアラジン君の頭をそっと撫でる。そして、その後ろで険しい表情を見せる王様、そして八人将は何か聞きたそうな顔をしていた。
「莉亜、君は…、」
『マギではありません。でも、ルフの加護を受けています。』
「金属器は何故使えるんだ。」
『これは正式な金属器ではないんです。私にしか扱えない力。しかし金属器と同等の力を扱えるのです。私に力を貸してくれているのは第73迷宮のミシャンドラ。』
あの事を話すのは禁じられているため、話せることだけを話した。王様は少し疑っているようだったけど、その場は納得してくれた。
「最後に聞こう。莉亜は味方なのか?敵なのか?」
『それはお答え出来ません。ただ、この世界を守りたいと思います。』
「そうか…、」
王様はそれ以上何も言わなかった。王様、貴方はとても眩しい存在です。あまりにも輝くから目が眩んでいつの間にか貴方に惹かれていく人間が多いのでしょう。しかし、私は違う。私は貴方に導かれて道を歩くんじゃない。私は私の道を選んで歩くのです。それを忘れないで。
((もう一人の王))