#崩壊
シンドバッドは珍しく嫌な予感がしていた。とても心が不安になり、なかなか眠りにつけない状態だった。そんな時、大きな魔力を感じた。魔導士ではないシンドバッドでも感じることの出来る大きな魔力だ。
寝台から起き上がり、紫獅塔から出る。外を見てみれば緑射塔から可視出来るほど密集しているルフが、ある部屋に集まっている。その部屋は莉亜の部屋だった。
シンドバッドは嫌な予感がして思わず駆け足で莉亜の部屋に向かう。ノックなどしている余裕もなく、勢いよく莉亜の部屋のドアを開けた。すると部屋にはアラジンと莉亜が倒れている。
「莉亜っ!アラジン!誰か!来てくれ!!」
とにかくシンドバッドはアラジンと莉亜をベッドに横たわらせた。少しすると眠たそうに目をこするアリババとモルジアナが部屋に訪れた。
「アラジン!?…それに莉亜も!何があったんですか…!?」
「アラジンさん!莉亜さん!しっかりしてください!!」
「モルジアナ、急いでヤムライハとジャーファルを連れて来てくれ。」
「わかりました。」
シンドバッドは莉亜の手をギュッと握る。どうか無事でいてほしい、そう思うのは本心だった。
「シンドバッドさん!連れて来ました!」
「王よ、何があったのですか!?」
「わからない、俺がここに来た時にはすでに2人共倒れていたんだ。」
「一体何故……!?!?これは…!」
「莉亜っ!?」
シンドバッド、そしてあアリババ、モルジアナ、ジャーファル、ヤムライハは驚愕した。何故なら莉亜の周りの可視化したルフが徐々に黒くなり始めていたから。そう、これはシンドバッドがよく知る堕転する現象だった。しかし原因がわからない上に莉亜の意識もないためどうしようも出来なかった。
「何故君ばかり辛い思いをしなければならないんだ…っ、」
「シンドバッドさん…、」
アリババはシンドバッドの暗い表情を見て状況の深刻さを知る。しかし心の何処かではアラジンがきっと何とかしてくれると信じていた。
「莉亜、負けんなよ。」
もう、あんな姿は見たくないんだ。カシムの時のように。そう心で呟いた。
その頃莉亜は絶望に精神が崩壊しつつあった。何度も何度もカナンを失う体験を繰り返していたのだ。死んでは戻り、死んでは戻り。その度に肉が切れる音と血の匂いが精神を窮地に追い込んでいく。
『もう……やめ………、カナン…、』
「
私が死ぬことは運命だったのでしょう。」
「
運命が私を殺したのです。」
運命…?こんなことが最初から決められていたというの?
「
莉亜様が運命の流れに逆流すれば私も助かります。」
『私が……?』
「
私は憎いのです。私を殺した運命が。しかし莉亜様に運命を壊してもらえば私はずっと莉亜様のお側にいることが出来ます。」
『ずっと…側に……、運命…壊す…、』
そうだ、全部全部壊してしまえばいい。こんな運命いらないもの。私の運命は私が決める。何かに決められるなんて嫌。こんな運命に縛られるくらいなら私は、
『
全部壊さなきゃ。』
まるで莉亜は何かに乗り移られたかのように、冷たい瞳をしていた。カナンを救いたいあまり本来の自分を見失っている。莉亜のルフは白から黒へと染まっていった。
「
莉亜様、こちらへ来てくださいませ。」
カナンが手招きしたのは真っ暗な道だった。果てが見えない暗黒。しかし今の莉亜にはそれが心地よくてたまらない。行かない理由などなかった。ゆっくりゆっくり一歩を踏み出して堕転への道を進んでいった。
「王よ!大変です!」
「なんだ!!」
「結界の外にアル・サーメンと思わしき者達が!」
「なんだと…!?まさか…莉亜の黒ルフに誘われてきたのか…っ、」
シンドリアは緊急事態に陥った。アル・サーメンは、まるで莉亜が堕転するのを待っているかのように結界の外に増えていく。
「八人将を集合させろ!兵士も全て戦闘態勢に入れ!!何があってもこの国を…莉亜を守るんだ!!」
「「「仰せのままに!」」」
莉亜の堕転は止まらなかった。真っ白ルフがどんどん黒くなっていく。
「莉亜っ!運命に負けるな!君は運命を乗り越えられる力を持っている!」
「莉亜!堕転なんかすんじゃねーよ!!頑張れ!!」
「莉亜さん!負けないでください!!貴女を待っている人がいます!」
シンドバッド、アリババ、モルジアナは必死に莉亜に語りかける。莉亜の手を握るシンドバッドの手は無意識に強くなっていた。
((崩壊))