※リョーマくんIN四天


何やら騒がしいと思って目を覚ました。

目をこすりながら辺りを見渡すと、どうやらいつの間にか授業が終わっていたらしい、時計に目をやれば時間は昼休みを残す所半分辺りと示している。
未だに覚醒し切らない頭を軽く左右に振り、もう一度辺りを見渡す。
多分他クラスの人もいるのではないだろうか、元々覚えてないだけかもしれないが見た事もない女子の面々が自分の席の周りを陣取り楽しそうにお弁当をつつき合っていた。
耳障りな高い声がひっきりなしに飛び交い居心地悪い事この上なし、空腹を訴える腹を一撫ですると、自分もいつも通り部活の先輩達と一緒にご飯を食べようと席を立った。
すると、声をかけられた。

「越前くん、こっち向ーいて」
「…なに……ぅわっ!」
「あ、ちょっとかけ過ぎちゃったかも」
「何やってんのよへたくそー」

同じクラスの人だった気がする、けどもしかしたら違うかもしれない。
そんな程度の認識しかない女子の呼びかけに素直に応じてしまった自分を呪った。


スイートマジック


越前が来ない。
別に絶対参加だとでも特に約束した記憶はないのに、最早恒例となってしまった昼休みのこの時間。
病欠や委員会などじゃない限り、誰一人としていつも欠けたりはしないこの時間。
だが今日は、もうとっくのとうに昼休みは半分過ぎたというのに、越前リョーマ、彼が来ない。

(同じ委員会の財前は普通に来とったし、委員会やないはずや…何かあったんやろか?)

彼と同じクラスであるもう一人の一年生、我が校切ってのゴンタクレは何やら今日は家の用事で遠い親戚の家に行くと昨日一斉送信メールが回ってきた。
だから余計に、今日の昼休みはそれはもう静かな物だった。
これと言った会話もなく進む今までにない程静かな昼食に、気を使った銀が「…今日は…ええ天気やなあ…」と3度も言ったくらいだ。
「それさっきも聞いたわよ」と小春に突っ込まれる度に「…せ、せやな…すまん」と申し訳なさそうにする銀がそれはそれで面白かったのだが、昼休みが半分過ぎた所で財前が「…俺、探してくるっすわ」とだけ言い残し屋上を後にしたものだから、そしたらもう「…じゃあ、俺も」「俺も!」とみんな後に続き今に至るのであった。

「じゃあ、見つけたらメールで連絡な」と言いみんなと屋上で分かれ各自各々思うがままに越前を探している。
白石は越前がよく昼寝をしている中庭を見てから一年の教室に向かおうと他のみんなとは違う裏の方向へと足を運んだ。
普段に比べ気持ち早めに歩きながら、先程までも何度も何度も鳴らしたが、もう一回と彼の携帯へ電話をかけてみる。
が、越前は今日携帯を忘れでもしたのだろうか、一向に出る気配がない。
彼は基本的に財布だけあればなんとかなる思考の考えの持ち主のようで、よく携帯電話を携帯しない。
無駄がないと言えば無駄がないのかもしれないが、今はその無駄を省いたおかげで返って手間が増えに増え、無駄だらけである。
やはり文明の利器というものはある程度手にしておくべきだと白石は思う。

「あ、白石さん」

少々物思いに耽りながら歩みを進めていたら、廊下の角を曲がった所で探し人に会った。
怪我や病気など、最悪の事態まで想定して探していた自分に取っては、こんな飄々といきなり現れるとは思っていなかったもので面食らってしまった。
そんな自分に彼はぬけぬけと「こんな所で何してんの?」等と言い出すものだからまったくたまったものじゃない。
白石はスっと越前の両頬に手を伸ばし、痛くない程度にそのスベスベとしたほっぺを引っ張った。

「…あにするんでふか、ひらいひさん」
「何するんはこっちの台詞や越前君。今まで何しとったん?」
「へてました」
「…ああ、今日金ちゃんがおらへんから、起こしてくれる人がおらんかったんか…なるほどな…しかしちょっと寝過ぎとちゃうん?俺らがどんだけ心配したと思ってんねん…せや、越前君、今日携帯は?」

頬を引っ張られた事により、もごもごと上手く喋れない越前君はとても可愛らしいが、先程からずっと「やめろ!」と言わんばかりにこちらへ睨みをきかせ続けているので、こんな事で機嫌を損なわれても困る、と手を離す。

「……忘れた、っす…」
「やっぱしな。…まったく、この間のデートの時も言ったやろ、携帯は携帯するから携帯電話言うんやって」
「…ちょっと。学校でそういう事言わないでって言ったじゃん」
「あー…堪忍」

さっきまで引っ張られていた頬を摩りながらこちらを見上げる、越前君。
そんなに強く引っ張ったつもりは毛頭ないのだが、少し赤くなってしまったようだ。
彼が臍を曲げてしまう前に謝罪しようと頭を屈め目線を合わせようとした時だった。

彼から、甘いお菓子のような香りがフワっと香った。

「なに?」
「…越前君、なんか付けとる?」

屈み目線を合わせたまま黙った俺を訝しげに見ながら、越前君が自分に何か付いてるのかと問う。
俺はそんな越前君に構う事なく、まじまじと彼を見つめながら鼻を利かせる。
うん、やはりこの香りは彼から漂ってきている。

「…ああ、やっぱり分かる?」
「うっすらとやけどな。なんか、めっちゃ甘ったるい匂いすんで」
「さっき、クラスの人?かは分かんないけど、教室に居た女子にいきなりかけられたんだよね…一応水道で洗ってみたんだけど、やっぱりダメかあ、」

寝ていてこの時間になったのも本当だろうが、教室に居た女性徒に突然かけられたフレグランスを水道で落としていて余計に遅くなったのであろう。
自分と同じくこの一年生を可愛がり心配していた友人達には、寝こけていた事を伏せ女生徒に絡まれていた、と話した方が話がスムーズに終わるだろうか、その方が嘘も言ってないし無駄が少ないなと考えながら、余程その匂いが気に入らないのだろう、眉をしかめながら自分の腕に鼻を寄せる彼を見つめた。
そんな彼を微笑ましく思い自然と笑みが溢れる。

「そんな嫌そうな顔せんでも…俺は別に嫌いやないで、この香り」
「アンタが良くても俺は嫌なの。気持ち悪いじゃん、こんなの」
「そうか?お菓子みたいで、美味しそうでええやん」
「別に美味しそうな匂いがするからって食べれるわけじゃないし…」

そんな彼の一言にピンときて、どうしようか結局彼の機嫌を損なってしまう結果へとなってしまうんじゃないだろうかとの考えが一瞬脳裏を過ったが、後悔先に立たず、後悔は後ですればええんや、と結論付け先程離した手をまた彼にそっと伸ばした。

「………な、越前くん」
「…なに?」
「俺なァ、なかなか自分が来ぃひんから、めっちゃ心配して、全然飯食ってへんねん」
「そうなの?ごめんね?じゃあ早く屋上行こうよ、俺もお腹すい「やから、越前君の事、食べてええ?」

彼の言葉を遮って自分の意見を言っただけでなく、彼の反論を聞く前にと勢いに全てを任せそのまま口づけた。
おあつらえ向きにすぐ目の前は使われてない教室がある。
いつもより数十分も彼と時間を共有出来なかったのだ、その分の貸しをここで返してもらっても、何もおかしな事はないだろう。
漸く口を離し、くたりと力が抜けてしまった小さな身体を抱き上げ白石はその場を後にした。


ねぇあげようか甘い罠
ほら、虜にしてあげる。


(残さず食べてね?)



*****
廊下に人は居ないのかとか白石お前見つけたらメールしろって言うとったやんとかはスルーの方向でお願いします。
なんでこんな話書いたかって言ったら私の愛用フレグランス、シュガーバニラさんが先生から不評で悔しかったからです。
チキショーいいじゃん可愛いじゃんなんだよチキショー白リョもぐもぐでもしなきゃやってらんねえよー
美味しそうで良いって作中に書いたけど実際そんなことはないと思う。
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