*金ちゃんとリョーマくんが同じ学校にいる設定



ふわっと鼻腔をくすぐる秋の香りを含んだ風が穏やかな日差しと共に窓から入り込んで来る。
窓側の席というのはどうしてこんなにも心地よい席なのであろうか。

昼休みを終えた今は5限目の国語の時間である。
なぜ、こんなに眠くなる時間帯にこんな眠くなる授業を割り振ったのだろう、教師達の考えが分からない。いっそささやかな悪意すら感じる。
肌をくすぐるそよ風と温かな日差し、程よい満腹感と眠気、教室に響くのは教師の教科書を朗読する子守唄のようなそれ。
これで寝るなという方がおかしい。越前はそう思う。

人間の三大欲求に抗えるはずがないのだ、と机にうつ伏し意識を手放そうとした時だった。ギギッと椅子の軋む音がし、閉じかけていた目を開き視線だけそちらに向けると、前の席の奴が、教師なんて関係無いと言わんばかりに堂々と黒板に背を向け、こちらに身体を向けていた。

彼、遠山は、特に何か配られたプリントを持ってるわけでもなく、聞き逃した(と言って聞かれても俺は先程から一切授業を聞いていないので彼の期待に応えられるわけもないが)と何か質問を投げかけるわけでもなく、ただジっと俺の顔を見つめてくるだけだった。

「…なに、」
「あ、起きとったんコシマエ?てっきり目ェ開けたまま寝てんのかと思ったわ」
「……んなワケないじゃん…」

人の名前をいつまで経っても覚えないだけでなく、なんて失礼な事を言い出す奴だろう。そもそも寝ている人の顔を見つめ続けるのは余り褒められた事ではないと思う。
何処から何処までも失礼尽くしな奴だと思った。

そこから遠山はまた特に何を言うでもなく俺の方をジっと見続けた。
そんな遠山に対して俺も何を言うでもなく今度こそ、と眠気に身を委ねようとした。が、しかし遠山と少しばかりの会話をしたせいか、ほんの少しだけ眠気が覚めてしまったようでさっきまでの抗えない程の眠気が消えてしまった。
覚めてしまったものはしょうがないので、まだウトウトと秋の日差しに身をまかせながらも俺は授業を受けようかと身体を起こした。

「あれ、コシマエ寝るのやめるん?」
「誰かさんの視線がうざったいからね」
「誰かさんて、ワイ?」
「…さあ、」

純粋というか物を知らない彼には遠回しな嫌みなど通用しないようで、彼はのんきに「ふーん」と呟いていた。
そんな彼から視線をずらし教卓の方へ目を向けると、教師は教科書を片手に朗読しながら見るだけで憂鬱になるような長文を黒板へと書き綴っていた。
後ろを向きっ放しの遠山が注意を受けなかったのはこの為か、と理解した。
そうしてまた視線を教卓から前の席へと移すと、前の席に座る遠山は相も変わらず俺の方をジっと見続けていた。

「さっきからさあ、一体なんなの?」
「?なにが?」
「なにが、じゃないでしょ。」
「だから、なにがなん?」

こいつとの会話は本当に疲れるなあ、と越前はため息をついた。
未だ頭にクエスチョンマークを浮かべたままの遠山は、いつもの調子で「まあえええか」と言わんばかりの表情を浮かべたあとペラペラと話し始めた。
俺は頬杖をつき彼の方へと顔を固定した。

「なーコシマエーこの授業つまらんなー」
「うん」
「本当いつまでこんなつまらん話聞かせる気やねんあのハゲ」
「うん」
「はー早く放課後ならへんかなーワイはよテニスしたいわー」
「うん」
「今日は練習試合の日やろー。ワイめっちゃ楽しみやってん」
「うん」

ペラペラとしゃべる彼に俺は惰性惰性で返事をした。
ら、さすがの彼も腹立ちを覚えたのかムっと眉間に少々の皺を寄せながら俺の方へキっとキツい視線をよこした。

「…なーコシマエ、ちゃんと聞いとる?」
「うん」
「ほんまに?」
「うん」
「……うせやん」
「うん」

彼の眉間の皺が一気に深くなった事についつい笑いがこみ上げて、フフッと笑いを零してしまった。余計に彼の顔が険しくなった。

「…コシマエのアホォ…」
「アホは遠山の方でしょ」
「なんでそんな時ばっかり返事すんねん…」

そんなのアンタの反応が面白いからに決まってるじゃん、と思いながらもこれ以上拗ねさせると後が面倒だな、と思い口には出さずクスクスと笑うだけに止めておいた。
が、どうやら俺は考えを見誤ってしまったようだった。

依然しかめっ面をしていた遠山はサっと俺の机の上に開かれる事なく鎮座していた教科書を奪い取ると、適当なページを開いたそれを持ちながら顔を近づけて来た。
キスされた、と気付いた時にはもうチュッと可愛いリップ音が響いたあとでバっと身を引き口元をぬぐった。
遠山はニヤニヤと嫌な笑みをこちらへ向けながら「コシマエが悪いんやで」と的外れな事をほざいていた。

不幸中の幸いか周りに気付かれた様子はなかったが、こいつは本当に真の大馬鹿者なんじゃないかと思った瞬間だった。
俺は依然ニヤついた顔の遠山から自分の教科書を奪うと、そのまま遠山の頭目掛けて振り下ろした。



今日の私は最悪にゴキゲン。


(なっ何すんねん!コシマエ!痛いやないか!)
(何すんねんはこっちの台詞だこの馬鹿!!!!!!暫く俺に近づかないで!)
(えっ?!なんで?なんでやの?!)
(うるさい!ばーーーかっ!)

(遠山、越前、あとで職員室来なさい)
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