「痛ッ…」
「どしたの?」
「…舌…かんだ……」

今日はお互い予定が空いていたので朝から晩までテニスの練習をすることにした。
そして今は休憩がてら昼食を取っていたのだが、俺がポットから今朝母がブレンドしてくれたフルーツティーを淹れている間に、待ちきれず先にサンドイッチを食べていたぼうやが突然小動物のような鳴き声をあげた。
どうやら舌を噛んだらしい。
俺を待ってくれなかった罰でも当たったのかな、なんて冗談でも言おうと思ったが、本当に思い切りよく舌を噛んだのか未だに口元を抑え涙目で悶えている。

「ちょっと見せて」
「…なんで」
「いいから。ほら、あーってして、あー」
「……………あー」
「あ、本当だ痛そう。血、出てるね」
「…んー」

嫌がる彼の口をちょっと無理矢理開かせ覗いてみたら、彼の赤い舌が一カ所、いつもより一層赤く染まっていた。
じわりじわりと血が流れ、彼の唾液と合い混ざって彼の口内がどんどん紅に染まって行く。
そんな様を彼の両頬を固定したままじっと見つめていたら、もう離せと言いたいのだろう、彼が言葉にならない声でうなり始めた。

しかし、涙目の彼をじっと見ていたら、ちょっとした悪戯心が湧いてしまった。

「…ちょっとジッとしててね、」
「なん、で……んッ……ふ…」
「…んー」
「…ちょっ…やめ……んんっ……痛ッ…は、ぁ…」

当然ながら彼の口内は血の味がした。
すっかり油断していたのだろう彼の口に、すかさずぬるりと舌を入れ込み彼の舌と絡ませた。
歯列をなぞりお互いの唾液を混ぜ舌と舌を絡ませ愛撫する。
その間々に例の舌の傷口を尖らせた舌先で突ついてみると、痛かったのだろう彼がうめき、一度引っ込んだ涙がまた彼の瞳に戻って来た。
しかし余り虐め過ぎても可哀相だから、と彼の呼吸が苦しくなる頃を見計らって唇を離した。

「…ふう、これで良し、と」
「…はァッ…は……なに…っていうか本当いきなり何すんの…!」
「ん?あ、そっか、越前くんは帰国子女だから知らないのか」
「…なに、が…!」

息も絶え絶えに悪態を吐く彼の顎につたった唾液を親指で拭いながら、彼のうるんだ目元に光る雫を唇で啜りながら、なんて事のないように俺は言う。

「ふふ、そんな怒らないでよ。あのね、日本には昔からこういう言葉があって」
「だから、なにが」
「舐めときゃ治る、って」

俺はすっかりご立腹な様子の彼の唇をペろりと舐めあげた。


ヴィンテージ



(それは迷信でしょ!)
(あれ?なんだ知ってたの?)

*****
この幸村君、リョーマくんのこと馬鹿にし過ぎじゃないだろうか。
でも舐めときゃ治るとか言っちゃう幸村君可愛くないですか…かっこいいじゃん…かわいいじゃん…?
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