「ね、幸村さんはまだ寝ないの?」
「うん?うーん…もうちょっと、キリの良い所まで読み進めたいかなあ」
「ふーん………ふわぁ」

今日は久々の連休で越前くんが我が家に泊まりに来た。
が、彼が家に来る事などもう両手足の指の数では足りない程だし、俺の布団は大きいからと同じ布団で二人一緒に眠る事に興奮はすれど今更新鮮み等は無い。
夜までテニスを楽しみ、先程夕食に風呂にと済ませあとはもう寝るだけとなった俺達は、俺はベッドの横に置いた椅子に座り先日買ったばかりのフランスの詩集を読みながら母さんの淹れてくれたカフェラテを飲み、ぼうやは俺のベットの上に座り携帯ゲーム機を弄りながらホットミルクを飲んでいた。

そうしてカップの中が半分減りもうほとんど冷たくなって来てしまった頃、フイに彼に声をかけられ冒頭へと至る。
彼はいつ止めたのか持参して来た携帯ゲーム機を鞄にしまっており、カップも空になって机の上に置いてあった。
両手で頬杖をつきこちらをじっと見つめる様から判断するに結構長い事こちらを見ていたのではないだろうか。

「フフ、ぼうやはもうおねむみたいだね」
「うん」

即答だった。
そうして彼はまた欠伸をひとつ。
相当眠いようだ、そんな彼を微笑ましく思いながらチラと壁に掛けてある時計に目をやると、時刻は零時15分前を指していた。

「先に寝てていいよ?」
「………」
「ぼうや?」
「…幸村さん、」
「ん?なんだい?」

彼が何か言いかそうにこちらへ視線をなげかける。
彼は眠くなると毎回こうなのだが、眠気のせいか一つ一つの動作が普段の彼より緩慢で、なんだか年相応の彼を見れてる気がして、何度体験してもこの時間が好きだなあと再認識する。

「こっち、こっちきて」
「ん?ああ、そっか。いいよ」

布団に半分身体を潜り込ませた彼がこっちこっちと自分の寝ている場所の隣をポンポンと叩きながら俺を呼ぶ。
そうして合点の行った俺は読んでいたページに栞を挟み閉じると、カップに残っていたカフェラテをグイっと飲み切り、空にしたカップを机の上に置き、椅子から立ち上がった。

「はやく」
「はいはい、まったくワガママなお姫様なんだから…よっと、」
「おひめさまじゃないもん」
「はいはい。さ、どうぞ」

俺は部屋の電気を消しベッドサイドランプに光を灯すと、枕元に詩集を投げ置き早くしてと急かす彼の隣へと寝転んだ。
彼と向き合うようにごろりと横になり、さっと彼が望んでいた俺の腕を彼の枕として差し出した。
すかさず俺の腕へ頭を乗せた彼は、薄暗い光の中、こちらにまだ文句ありげな瞳を向けていた。

「…………ねえ、」
「ん?なあに?」
「…わかってるくせに」
「ふふ、言わなきゃわかんないよ」
「………」
「ね、なにがしてほしいの?ぼうやは」

こうなるのはいつもの事なので、本当は彼が勝手に一人で寝ずにわざわざ俺に眠いと告げて来た時点で腕枕を所望していた事も、いま、彼が望んでいる事も分かっているのだが、なんでもかんでもこっちが言われずともやってあげるのは、なんだか性に合わないのだ。
彼の事はドロドロに甘やかしてやりたいと思っているのだが、彼のいろんな表情態度が見てみたくてついついこうして意地悪をしてしまう。
自分でも酷い性格だなあ、と思う。
しかしそんな依然変わらず、なにが?と微笑み続ける俺のシャツの胸元を握りしめながら、むう、と頬を膨らませこちらを睨みつけてくる彼が可愛くてしょうがない。
そんな可愛い彼のおでこを枕にしてない方の手で髪の毛を払い出し、ちゅと優しく触れる口づけを落とし、また彼と視線を合わせた。

「…やっぱりわかってるじゃん」
「わかんないよ?」
「ゆきむらさんってほんとうにいじわる」
「そう?」
「…もうい」

流石に今回は虐め過ぎたのか、折角一緒に寝るというのにもういいと言いそっぽを向く素振りを見せた彼の唇にすかさず自分のものを合わせ固定した。
流石に今日は一日中テニスをしていただけあって俺も彼も疲労を感じているので、変な気にならないようにと触れるだけの静かな口づけを落とし、離れ、また触れた。
彼が機嫌を良くしふわふわと身体の力を抜いた頃を見計らって唇を離した。

「……これで、満足かな?お姫様」
「…だからおひめさまじゃないってば…」
「いいんだよ俺にとって世界で一番可愛い人は君だから」
「わけわかんないし…」
「ふふ、ほら、眠いんだろう?おやすみ」
「………ん」
「また明日、ね」

最後にもう一度ちゅっと音を立て唇を吸って離した。
静かな寝息が聞こえて来たのを確認すると、俺は彼の身体を一層こちらに近づけ抱き込むと自由な方の手で先程枕元に置いた詩集に手を伸ばした。
こうすると翌日手が痺れるんだよなあ、と思いつつも隣から聞こえる寝息に微笑みを漏らし、俺は詩集を開いた。



ワールドイズマイン
(別にわがままなんて言ってないんだから)


*****
腕枕してって頼むリョーマくん、腕が痺れるけど、嬉しくて幸せで断れない幸村くん。

こいつら歯磨いてねえ…良い子は歯磨いてから寝ましょうねッ、はい。
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