*お互い大好き過ぎて正直引く
(書き上げ読み直しての感想)




「幸村さんは俺のどこが好きなの?」
「え?」
「幸村さんは、俺の、どこに欲情してるの?」
「………は、」



HONEY?



「…げほっ、げほっ」
「大丈夫?」
「…い、きなり何を言い出すのかな、君は」

思わず飲んでいた紅茶が口から零れそうになり噎せてしまった。
それくらい、俺の布団にあぐらをかき、もふもふと俺の枕と遊んでいた越前君が唐突に口にした一言は衝撃的だったのだ。
脈絡の無い会話は今に始まった事ではないが、だがしかし今回は余りにも唐突で余りにも脈絡が無さすぎた。

「いや、気になって」
「いや気になってって…。ついさっきまで羽毛がどうの焼き鳥が食べたいどうのって話をしてたと思ったけど」
「それはそれ、だよ幸村さん。で、どうなの?」
「どうなのって、なにがだい」
「だーかーらー俺の何がイイの?」

いつまで経っても進まない会話に軽く苛立ったのか、彼はこちらにキツい視線を投げて来た。
しかし、そうは言われても。

「ぼうやの全てが好き、という解答じゃ君は一切満足しなさそうだよね」
「やだ、だめ。ちゃんと細かく」
「うーん、困ったなあ」

こうなった時の越前くんは普段の彼に比べ凄く意固地である。
普段の彼は逆にこっちが本当は俺の事なんかどうでもいいんじゃないだろうかと心配してしまうくらい淡白なのだが、どんな些細な事でも何か彼の心の琴線に触れてしまうと、それはもう意固地も意固地、暫くの間彼の臍は曲がりっ放しである。
今回は口を聞いてくれるだけマシなのだが、でもそれは俺の解答次第によってはすぐいつも通りへと変わってしまうのだろう。

「何があったの?」
「え?」

実際、彼の好きな所はたくさんある。
そりゃあ一晩で語りきれるかわからない程にたくさんある。
それを真顔で彼の耳元で囁き続け羞恥に頬を染める彼を虐め眺めるのもなかなか楽しそうで心惹かれるものがあるのだが、それよりも俺は彼、普段ならこんなこと気にしないであろう越前くんが何故こんな質問を投げかけて来たのか、という方が興味があった。

「普段の君だったらそんな事聞かないでしょ?だから、そんな下らないことを聞きたくなるような何かがあったんじゃないの?」
「…人が真面目に聞いてるのに、くだらない、とか…」
「くだらないよ。だって俺はこんなに君を愛してるっていうのに」
「………」
「俺の愛は、君に届いてないのかな?」
「………そんなこと、ない」
「そう、それならひとまず安心だね」

まあ、届いてないなんて言われたら泣いても許さない強制お泊まりコースに持ち込むつもりだったけど。
心の中でそう言いそっと飲み込んだ。

さて、これで彼も少しは話しやすくなっただろうか。
クールな彼の素直な気持ちを引き出すのはいろいろと下準備がかかせない、しかしそんな所も愛おしくてしょうがない。
俺はそれくらい彼に溺れているというのに、彼は一体何に、俺のどこに、実は愛されてないんじゃないだろうかとの不安を見出したのだろうか。
俺は今まで寄りかかっていた、すっかり冷えきってしまった紅茶の置いてある机から離れ、彼の隣に腰を下ろした。

「ね、何かあったの?」

二人分の体重にギシっと鳴いたベットを他所に、俺は最後の一押しと言わんばかりに優しく諭すように聞いた。
すると、越前くんは視線を下に彷徨わせながらポツリポツリと語り始めた。

「さっき、幸村さんが紅茶淹れに行った時、」
「うん」
「うっかり枕飛ばしちゃって、ゴミ箱に当たっちゃって、倒れちゃって」
「………あー」
「そしたら、ラブレターが、いっぱい出て来たから、」
「なるほどね」

彼という可愛い恋人が出来てからは告白を受けても極力受け取らない努力をしていた。
だが、最近は告白の為呼び出されても「君の気持ちは受け取れない」と一言い残しその場を後にしてばかりだから、俺の靴箱がラブレター投函口へと進化したのか、と一人納得し、学校で捨てるのは余りにも道徳に反するものがあったので渋々家に持ち帰った。
そしてちょっと可哀相かなと一瞬考えたが、しかし本来ならこれは受け取ってないものだし、と早々に結論を出し、封も切らずに自室のゴミ箱に投げ入れたのは記憶に新しい。

「あ、でも中身は読んでないから」
越前くんは中を見たのだろうか、そう俺が心の中で質問したのをまるで察知したかのようなタイミングの良さで彼はこちらを向き呟いた。

「え、そうなの?なんで?」
「なんでって…人として最低じゃんそんなの…」
「そう?俺は越前くんの家のゴミ箱からラブレターが出て来たら事細かに目を通して物的証拠としてコピーを取ってから切り刻んで燃やすよ?」
「幸村さんこわい」
「フフ、君の事大好きなんだからしょうがないじゃない。っと話が逸れちゃったね、ごめん。それで?」

幸村さんが言うと冗談に聞こえないっす、なんて言ってまた視線を彷徨わせ始めた越前くん。
冗談に聞こえないってそりゃあ冗談じゃないから冗談に聞こえるはずがない、と言おうか悩んだけどまた話の腰を折ってしまうから、と口を閉ざす。
暫しの沈黙が流れた後、先程よりもっと小さい心もとない声で沈黙は切られた。

「…べつ、に、嫉妬とかそういうんじゃなくて、なんか、でも、俺はどう頑張っても、女の子にはなれない。幸村さんとしてるのは、恋だと思ってる、けど、普通とは違う」
「うん」
「だから、本当に俺なんかでいいのかな、って……思っ、た」

最後の方はほとんど聞こえなかった。
越前くんの方へ顔を向けるといつのまにか座り方をあぐらから体育座りへと変え、俺の枕に顔を埋めていた。
枕に顔を埋めた彼の顔は当然ながら枕に邪魔されて見えない。
俺は枕の端をぐいと引っ張った。

「…ちょっと、何するんですか」
「いや、泣いてるのかと思って。枕、邪魔だなって」
「泣いてないですし枕は邪魔じゃないです」

どの声で泣いてないだなんて言うんだか。
しかし全身でこっちを見ないで下さいと言わんばかりの態度に邪見な態度で応対する事などできるはずもなく。
俺は身体ごと彼の方へ向けると優しく彼の頭を撫でた。

「馬鹿だね、ぼうやは」
「………」
「そんな事気にしなくていいのに。」
「…人が、せっかく悩ん…」
「俺は君だけを愛してるよ」

「俺はぼうやが、越前リョーマという人間が大好きだよ。愛している。男か女かなんて関係無い。君を心から愛している。」
「俺はまだ15年しか生きてないけど、でも、そのたった15年でも他の15歳より、人一倍苦しんだしいろんな事を考えて今までを生きて来た。俺はその今までの中で君が一番好きだしきっとこれからの未来も君以上の人は見つからないと思ってる。」
「これから先、君がもし俺の元から離れても俺は君が好きだからきっとそれを甘受してしまうだろう、でも、それでも俺はずっと君だけを愛している自信があるし、君がもし本当に俺の元を離れたとしても、俺は何年かけてでももう一度君に好きになってもらえるよう、自分に磨きをかけて、君だけを思い続けて、君の元へ、会いに行くよ。それくらい俺は越前くん、君の事を愛「ちょ、ちょっと幸村さん!ストップ!ストップ!!!」

そう叫びながらさっきまであんなに頑なに手放さなかった枕を放り投げ、俺の口元に手を押し付ける越前くん。
俺はニコリと笑みを浮かべるよう表情筋を動かして、彼の両手を口元から剥がし壊れ物を扱うみたいにそっと握りしめた。

「漸くこっちを見てくれたね」
「あ、」
「フフ、まだまだ全然言い足りないけど?」
「…だって、」
「いいよ、付き合ってあげる」
「…え?」

枕で擦れたのかすっかり真っ赤になってしまった彼の目元に、そして瞼に、鼻に、おでこに、口づけを落とし、静かに離れ、彼を真正面から見つめ、囁く。

「一個ずつ一個ずつ、君が納得するまでゆっくり教えてあげる」
「……っす、」


そう言ったら、彼は目元だけでなく、顔中真っ赤になってしまった。
そんな彼に微笑ましい気持ちと愛おしい気持ちでいっぱいになった俺が笑いを抑えられるはずがなく、そんな俺の反応に、彼はまた視線を彷徨わせ唇を噛み締めながら下を向くのだった。



So, I hope this pure feeling never ends
Honey?






「でも、その前に」
「え?」

ドン、とまではいかなくとも、結構な力を込めて彼の肩を押した。
しかし流石は彼も夢中になるくらいの俺の最高品質羽毛布団だ、特に痛みは感じなかっただろう。
彼の背後からはポスンと間抜けな音が聞こえた。

自分の身に何が起きたのかいまいち理解できてない様子の彼は大きな瞳を一段と大きくまんまるにさせてパチクリと瞬いた。
そんな彼の様子がまた可愛らしく、ちゅっとリップ音を立て目の前にあった唇に吸い付いてみた。
したらば漸く自分の現状を理解出来たらしい彼は、途端に手足をばたつかせ弱い抵抗を見せた。

「ね、ちょっと付き合ってよ」
「…や、ちょっ…い、いきなりなんなの…!」
「だって、ぼうやが余りにも可愛い事言うから」


(欲情、しちゃった)





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